2026年3月24日、STORIUM(株式会社グランストーリー)主催のイベント「RE:LOCAL by STORIUM 地域産業アップデート会議」を、虎ノ門にある中央⽇本⼟地建物グループのR&D拠点「NAKANIWA」で開催。地域金融機関、自治体、事業会社、投資家など各地の産業を担う「地域イノベーター」たちが集まるなか、STORIUMが選抜した10社のスタートアップが登壇しました。
本イベントのコンセプトは「インタラクティブピッチ」。登壇者の発信に参加者が対話や質疑で応じながら、連携の糸口を探る場となりました。
STORIUMが描く「地域実装」の構想

ピッチに先立ち、本イベントを主催した株式会社グランストーリーの越智 敬之さんが登壇しました。同社が運営する「STORIUM」は、スタートアップ・投資家・事業会社・金融機関・自治体など多様なステークホルダーが集まるビジネスプラットフォームです。サービス開始から5年、現在は900社近くが参加するクローズドな場として、企業間の共創を促す場となっています。
越智さんが掲げるミッションは「潜在市場を顕在化すること」。スタートアップのエコシステムは可視化が進む一方、ネットワークは依然として東京に偏っています。地銀や自治体、事業会社が持つ「持ち場」にスタートアップの想いと熱量を届けることが「STORIUM」の存在意義だと語りました。
また、本イベントについては「登壇企業の想いを皆さんの持ち場でどう形にしていくか、その想像力にエネルギーを向けてほしい」と強調。単なる情報収集の場ではなく、ネクストアクションを生むための時間として位置づけていることも伝えられました。
株式会社Ashirase|代表取締役CEO 千野 歩さん

自動運転の制御エンジニアを務めていた千野さん。株式会社Ashiraseの創業のきっかけは、ご家族に発生した不慮の事故でした。「車の世界では単独事故という概念があります。しかし歩行中に、外的要因もないのに事故が起きるとは思っていませんでした」と振り返り、自動運転で培った技術を歩行領域に応用するべく起業に至ったと語りました。
千野さんが最初に手がけたのは、視覚障がい者向けの歩行ナビゲーションサービスです。靴に取りつけたデバイスが足元を振動させ、聴覚を邪魔せずにナビゲートする仕組みで、38自治体の補助金採択と海外展開も進んでいます。現在は健常者向けBtoB屋内ナビゲーションにも展開しており、ビーコンやWi-Fiを使わず、スマートフォンのカメラやセンサーだけで位置を特定できる点が強みだと紹介しました。
また、地方から「ウォーカブルなまちづくり」というキーワードで問い合わせが増えていることについても言及。実際に広島市では、市民がまちの施設を歩いて段差などのデータを収集する「屋内スキャン・クエスト」が進行中です。現在は、地域の建物データ収集や利活用を一緒に考えられる相手を探していることから、会場の自治体担当者と活発な質疑応答を交わしていました。
株式会社iiba|代表取締役 逢澤 奈菜さん

子育て中の親が直面する「情報の断絶」を解消したいという動機から生まれたのが、マップアプリ「iiba」です。「iiba」はパパとママの口コミで構成される子育て特化のプラットフォームであり、全国10万件以上のスポットデータを持っているのが特徴。各都道府県のインフルエンサーネットワークとも連動し、日本全国から情報が集まります。
逢澤さんは同アプリの強みについて、「自治体との連携は50自治体を突破しており、行政の子育てマップをデジタル化してユーザーへ届ける仕組みがあります」と語りました。現在は、東京都で子育て給付金デジタル化のPoC実証も進めています。
会場の地銀担当者から「1年で50自治体と連携するスピード感に関心を持っています。何が決め手だったのでしょうか」と問われると、逢澤さんは「そもそも問い合わせの半数以上が自治体側からでした。インフルエンサーを通じて、住民に届けるところまで担えたのが連携に至った理由だと思います」と回答。今後は地方銀行やデベロッパー、鉄道会社との連携を深めたいとアピールしました。
株式会社キビテク|取締役 Founder CCPO 林 摩梨花さん

創業14年、300件以上のロボット開発プロジェクトを手がけてきたキビテク。林さんが解説したのは、これまで同社が蓄積してきた知見を詰め込んだ、自社クラウドプラットフォーム「HATS」の製品化についてです。
「HATS」は人型・ペット型・ドローン・産業用マニピュレーターなど機種を問わないベンダーフリーの管理プラットフォームであり、遠隔制御・復旧機能を核に置いています。岐阜の現場にあるロボットを大阪のオペレーターが操作し、東京の技術担当者が管理するといった運用実績もあり、欧州工場にも導入されている事例が紹介されました。
林さんは、ロボット開発における自社のスタンスについて「完璧を待たずに入れる」ことを意識していると強調しました。まずは実地導入し、学習と遠隔復旧を重ねながら精度を上げていくことが大切とのこと。今後は、電力設備や化学プラントなどインフラ系設備の点検・管理に課題を持つ事業者と関係を深めていきたいと語りました。
株式会社Skillnote|取締役 COO 高野 雄治さん

「製造業において競争力の源泉は人にある」と語る高野さん。溶接ひとつとっても200以上のスキル項目が存在するなど、製造業は従業員が持つスキルの集合体です。しかし現場の実態は「ISOの規格を取るためだけに個々のスキルを管理しているだけで、実際にはスキルデータが活用されていない」と指摘しました。
また問題提起として、部署ごとに異なるExcelフォーマット、ハンコ、紙データがどんどんブラックボックス化されていく現状を提示。Skillnoteは、これらの人が持つスキルデータを一元管理し、技能伝承や若手育成に使えるプラットフォームとして提供していると紹介しました。現在は24万人・1700万件のスキル情報が蓄積されており、地方の中小企業にて50〜100名単位での活用が増えています。
質疑応答では、職人の感覚的なスキルの評価方法が問われました。「形式化は困難」としながらも、ベテランの動きを動画分析してAIと照合し、スキル評価に反映するアプローチを紹介。スキルデータはさまざまなシステムと連携することで価値が増幅すると述べ、活用に関心を持つパートナー企業との協業を呼びかけました。
株式会社ソラリス|代表取締役CEO 市橋 徹さん

ソラリスは、工場や社会インフラの小口径配管内を進む「ミミズ型管内走行ロボット」の開発を行うスタートアップです。同社のロボットは中央大学発の人工筋肉技術を核に開発されており、工場などの配管の清掃と点検を同時に行います。
市橋さんはピッチの冒頭、会場の天井を指さしました。「この会場もそうですが、今の社会は配管だらけですよね。社会の毛細血管と言っていいと思います」。細い配管は詰まると生産ラインの停止や火災・爆発につながる深刻な課題を抱えており、これまでは効率的なメンテナンスの手立てがなかった領域です。
同社はサブスク型のロボットサービスで配管のメンテナンスを実現し、半導体工場を皮切りに下水道や社会インフラ領域へと取引を拡大、将来的には世界のリーディングカンパニーを目指すと語りました。
市橋さんが半導体工場に的を絞った理由は「PoCを重ねるうちにカスタマイズの嵐になって、ビジネスとして成り立たなくなる」という落とし穴を避けるため。装置の共通性が高い半導体工場なら、それを回避できると判断したそう。登壇の最後には、各業界に精通した事業パートナーとともに業界別ソリューションを開発していく方針も示しました。
匠技研工業株式会社|代表取締役社長 前田 将太さん

製造業の現場では、紙の図面を前にベテランに確認しながら電卓を叩き、見積書をFAXで送るプロセスが今も続いています。この課題を解決すべく、前田さんは「匠フォース」を開発しました。「匠フォース」は、図面をアップロードするだけでAIが類似案件を自動抽出し、各社固有の原価計算式で見積もりを算出するシステムです。国内に22万社ある製造業を市場と見据えており、船井総研との共同セミナーなどで業界への認知拡大を進めています。
同社が静岡銀行との共同出展から生みだした「適正原価診断プロジェクト」では、地方銀行とともに取引先製造業を訪問し、見積もりの適正化と導入提案を進める営業モデルが動き始めています。複数の地域金融・エネルギー機関との連携も進行中とアピールし、製造業の取引先を持つ地方銀行との協働を呼びかけました。
株式会社Malme|代表取締役 高取 佑さん

今の日本では、公共インフラの半数以上が法定耐用年数を超え、技術者が今後の5年で50%減少し、自力で管理できる自治体は全体の5%に過ぎない。高取さんはこうした現状を示しながら、現在、国が推進している「地域インフラ群再生戦略マネジメント」が抱える課題を指摘しました。
公共インフラの図面など、自治体が管理すべきデータの調査には10〜15年かかる例もあり、目の前の老朽化問題には対応できていません。Malmeはその空白に民間として踏み込み、開発中のデータ基盤「CiviLink」で紙ベースの設計図面をAI可読なデータに変換し、膨大な修正・変更作業を一元管理する仕組み作りをしています。
会場の自治体関係者から導入可能なエリアの規模感について問われると、人口10~50万人規模のエリアが包括管理に適しているとしつつ、横浜市のような大都市でも道路・橋を丸ごと管理するニーズがあると回答。現在は総合商社を巻き込んだ大型インフラ包括委託プロジェクトを見据え、プロジェクトファイナンスを検討できる金融機関との接点を広げたいとアピールしました。
MUSVI株式会社|代表取締役 Founder & CEO 阪井 祐介さん

縦長のスクリーンに同社のスタッフがリモートワークをする等身大の姿が映り、同社のテレプレゼンスシステム「窓」のリアルタイムデモが始まりました。25年以上にわたり認知心理学と空間設計を研究してきた阪井さんは、丹田(おへそ)が見える等身大の縦型表示が「そこに人がいるリアルな感覚」を生みだすと解説。また、リモートワークかフル出社かという二項対立ではなく、距離を前提にした新しいつながり方を作りたいと語りました。
「窓」は現在、鹿島建設のトンネル工事現場や千葉銀行のDX無人店舗、琉球大学の精神科診療など、1,000台を越える導入実績があります。地方の教育機関・医療施設・インキュベーション拠点への展開を進めており、物理的な距離を課題と感じている現場への実機持ち込みも随時対応していると紹介しました。
株式会社Laspy|代表取締役社長 藪原 拓人さん

コロナ禍にスーパーでの買い占めが起きた際、「自制心だけで流通をコントロールするのは無理だ」と感じたことが創業のきっかけだと語る藪原さん。備蓄が社会のインフラとして機能する世界観を作りたいという思いから立ち上げたのが「あんしんストック」です。藪原さんは3.11以降、全従業員の3日分の備蓄が条例で義務化されたものの、5年ごとの入れ替えは実態として形骸化している企業がほとんどだと指摘。Laspyは購入から設置・入れ替え・廃棄・データ管理まですべて請け負うサブスクモデルで、備蓄の購入予算ごとアウトソースできる仕組みを提供しています。
2025年は2名のセールスと広告費35万円で100社との取引を獲得。ビルオーナーと連携した建物備蓄インフラ化モデルも数十棟単位で広がっているそうです。今後はより大きな市場機会を追求するための資金確保として、会場の地域金融機関・事業会社との接点を求めていると述べました。
株式会社Recept|CEO 中瀬 将健さん

企業の人事・給与システムには、年収・等級・評価といった与信に必要なデータが眠っています。中瀬さんは与信審査の場において、これらの情報が活用されないまま、金融機関の担当者が自力で情報を集めている現状を問題提起しました。現状は自己申告の内容に加え、給与明細や源泉徴収票のやり取りが発生しており、審査プロセスに手間がかかっています。
Receptが開発した「proovy」は、マイナポータルからの所得情報とHRシステムの等級・年収データを本人性が担保された状態で金融機関に自動連携するシステムです。マイナンバーカードタッチ操作により機密性が保たれており、2024年度は国内唯一の導入実績を持っています。
同社が今後目指すのは、自己申告ベースの与信から実態に基づく適正与信への転換です。現在は和歌山県の金融機関との連携を皮切りに、2026年内の実証開始を計画中。与信精度の向上に関心を持つ地方銀行・信用金庫や、実証フィールドとなれる自治体との連携を広げられるよう、会場の金融関係者へアピールしていました。
まとめ
「ネクストアクションを生むための時間」として位置づけられた本イベント。登壇10社それぞれが地域金融機関や自治体など、さまざまなステークホルダーとの接点を求め、質疑応答の時間でも具体的な連携の議論が生まれました。出会いをどのように形にするか。それぞれの持ち場での、ネクストアクションを期待しています。













