SENQイベント「福島・浜通り 食と酒を味わいつくすナイト」レポート

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全国各地のパブリックパートナーが集まる「SENQ」では、自治体とのコラボレーションによるさまざまなイベントが行われています。この記事では、SENQ田町が入居するミタマチテラスで行われた「福島・浜通り 食と酒を味わいつくすナイト」についてお伝えします。

“新しいお酒の聖地”こと福島・浜通りを盛り立てる若き移住者たち

この日、SENQ田町のあるミタマチテラスの会議室には、パブリックパートナーとしてSENQと共に地域創生、自治体連携×スタートアップの取り組みを進めている福島県東京事務所のみなさんをはじめ、福島県への移住・起業を支える関係者、福島県で起業した事業者、SENQ入居者などさまざまなメンバーが集まりました。

最初にマイクを取った福島県東京事務所 髙橋さんはまず「今年は福島県にとって、東日本大震災から15年、県政150周年を迎える節目の年」だと述べました。東京駅から新幹線で約90分、“名古屋と同じ程度の時間”でアクセスできる福島県。また、北海道・岩手県に次いで全国3番目に面積が大きい県であり、東西移動には約4時間かかる“横に長い県”でもあるといいます。

福島県東京事務所 髙橋さん

続いて、県内の3つの地域が紹介されました。「会津」エリアは雄大な自然と歴史・文化に加え、スキー場が多く、「中通り」エリアは東北新幹線・東北自動車道が走り首都圏からのアクセスが良好で、さくらんぼ・桃・柿・リンゴなどの果樹栽培が盛んだそう。そして海沿いの「浜通り」エリアは東北地方の中でも温暖な気候が特徴であり、サーフスポットも点在していることが紹介されました。

このイベント前日には、新地町からいわき市を結ぶ全長約180キロメートルの「ふくしま浜通りサイクルルート(通称:浜サイ)」が東北地方初のナショナルサイクルルートに指定され、国交省で記念式典が開催されたそう。

そして話題は各エリアの郷土料理へと移ります。会津の「こづゆ」はホタテの干し貝柱で出汁をとった里芋・人参などの煮物で、正月やお祝い事の際に会津塗りのお椀で供されるごちそうです。中通りの「イカ人参」はスルメイカと人参を醤油・みりんで漬けたもので、松前漬けのルーツともいわれています。そして髙橋さん自身の好物でもあるという浜通りの「メヒカリの唐揚げ」。メヒカリはいわき市の魚に認定された深海魚で、脂ののった白身が特徴なのだとか。

さらに福島県には50以上の酒蔵があり、全国新酒鑑評会で2年連続“金賞受賞数日本一”を誇る酒どころでもあります。近年はウイスキー、ワイン、クラフトビール、クラフトジン、クラフトサケなどこれまでにない酒造りへの挑戦も増え、またその多くを移住者が担っているのだそうです。

ちなみにこの日は、赤坂に店を構える東北カフェ&ダイニング「トレジオンポート」が“浜通りの食材を使った”特別メニューを提供。南相馬市「みそ漬処 香の蔵」のクリームチーズのみそ漬&田村市「ハム工房都路」のベーコン入り特製ポテトサラダ、浜通り仕込みのイカ人参、メヒカリの唐揚げ、飯舘村の「雪っ娘かぼちゃ」のキッシュ、ローストビーフの「相馬ヤマブン山形屋」特選醤油添え、浪江町の「サムライガーリック」とトマトの冷製パスタなどが振る舞われました。

浜通りの食材を使った特別メニュー

続いてマイクを取ったふくしま12市町村移住支援センター東京サテライト 亀﨑さんは、「浜通りはなぜ“新しいお酒の聖地”となったのか? 震災から15年・移住者の挑戦」と銘打って、その取り組みを紹介しました。

“ふくしま12市町村”とは、2011年の東京電力福島第一原子力発電所の事故によって避難指示対象となった12市町村(田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村)のこと。2022年に12すべての市町村の一部または全域で避難指示が解除されました。各市町村への帰還状況については、今年3月時点で広野町の帰還率が79%である一方、大熊町・双葉町はそれぞれ2.88%、1.2%にとどまっているそう。また、川内村は事故以前の人口と比較して84.2%の居住者があるものの、実は元の住民の帰還率は45.35%。つまり約40%は新しく移り住んだ移住者なのだといいます。

ふくしま12市町村移住支援センターが開所する前年の2020年度の年間移住者数は213人。しかし、2025年度には975人に増加しています。20〜30代の若い世代が多く、一都三県、いわゆる首都圏からの移住が約4割を占めているところも特徴的です。

そして浜通りは、こうした移住者が中心となって“新しいお酒の聖地”化が進んでいるとのこと。震災前に3軒あった日本酒の酒蔵は廃業や県外への移転など苦難を経た中で、2015年にクラフトビールの「HOP JAPAN」が設立されたほか、2016年には「富岡ワイナリー」の元になるプロジェクトが始動。2017年には「かわうちワイナリー」が設立され、2021年には浪江町の酒蔵で、震災により山形県に移転していた「鈴木酒造店」が浪江町内での酒造りを再開しました。また、2021年クラフトサケの「haccoba」、2022年「ぷくぷく醸造」、リキュールの「Ichido」、2024年にはクラフトジン「naturadistill川内村蒸溜所」設立と、10年余りで多様なジャンルの酒造りが生まれています。

ふくしま 12 市町村移住支援センター東京サテライト 亀﨑さん

盛り上がりの理由としてまず挙げられたのが「作り手同士のつながり」。haccobaの醸造責任者が独立してぷくぷく醸造を設立、HOP JAPANの醸造士がnaturadistill川内村蒸溜所を設立、ぷくぷく醸造はHOP JAPANのタンクでホップサケを醸造……と、ジャンルは違えどつながり合って酒造りをしているといいます。

また、避難指示解除直後から入った移住者の熱い思いが形作った「挑戦を後押しする風土」、そして福島県による「全国トップレベルの支援制度」も、地域の盛り上がりを支えています。

実は、ふくしま12市町村移住支援センターの“東京サテライト”は、2026年7月にSENQ田町で開所したばかり。亀﨑さんは最後に、今後も首都圏でのイベント開催や企業・大学との連携を進めていくと意気込みを語りました。

移住先で“ゼロからの酒造り”に挑み、クラフトサケを生んだhaccoba

ここで司会の中央日本土地建物 松井さんが「喉が渇いてきた方もいらっしゃると思うので」と、用意されたお酒を勧めます。ラインナップには亀﨑さんから紹介された福島のお酒に加え、甘酒なども並びます。また亀﨑さんのお話を受けて「市町村によっては約半数が移住者。でも移住者ばかりではなく、戻ってきた方々と交じり合っているところがすごくいい。お酒も、昔ながらの伝統的なお酒が戻ってきながら、新しいクラフトビールも生まれていく、新旧入り混じった面白い街が生まれていく期待感がある」と福島への思いを語りました。

用意された お酒

続いて登壇したのは“新しいお酒の聖地”の一角をなすhaccobaの代表、佐藤さん。いわゆる酒蔵の跡取りではなく、酒造りに惚れ込んで修業し、起業にこぎつけたという熱い人物です。

佐藤さんは「人口がゼロになった街でゼロから酒を醸す」というコンセプトを掲げ、日本酒産業の課題と原発事故後の地域課題の両方を“軽やかに突破していく存在”を目指しているといいます。

日本酒産業の課題として、飲まれる量・作られる量の減少、新規参入規制による新陳代謝の欠如などがあるという佐藤さん。また、海外では日本酒の酒蔵が100軒に迫る勢いで増加しており、10〜20年後には海外の日本酒蔵数が国内を上回る可能性があること、海外に日本酒が広まるのは喜ばしい一方で、日本が日本酒文化のイニシアチブをとれなくなる可能性を危惧しました。

haccobaが手がける「クラフトサケ」は、植物など“お米以外の素材”を一緒に発酵させて作る新しいジャンルの日本酒のこと。看板銘柄「はなうたホップス」はビール用のホップをお米と一緒に発酵させたもので、グレープフルーツのような柑橘の香りや苦味が表現できるといいます。haccobaでは、酒造り開始から5年で100種類以上ものレシピを開発しているのだそう。

また佐藤さんは、クラフトサケの文化的ルーツにも触れます。現在、日本においてクラフトサケは法律上、日本酒とは異なる「その他の醸造酒」等の区分で製造されており、新しいジャンルと見なされていますが、中世ヨーロッパではホップが普及する以前にハーブを使って作られていた「グルートビール」の例もあるように、その製法自体は1000年は遡れる文化的ロマンがある……と熱く語りました。

haccoba の代表、佐藤さん

haccobaはほかにも、地域活動として、有機農家との連携による酒粕を使った有機肥料の開発、酒場の運営による地域コミュニティ形成、JRとの協業によるJR常磐線小高駅の無人駅舎を活用したパブリックマーケット運営、電力小売事業、アーティストと共同でのお祭り立ち上げなど多岐にわたる活動を行っているそう。

そして2026年9月には内神田に東京での拠点を開設予定であること、またベルギーでの蒸留所設立準備を進めていることなど、楽しみな予定も明かされました。

松井さんは、日本酒において原価積み上げ型の販売価格が課題といわれることに触れ、「新しいお酒の作り方を含めた、販売のあり方でもさまざまなチャレンジがあると面白い」と述べます。また先の「新旧入り混じって面白い」という自らのコメントを省みて「クラフトサケは単に新しいものではなく、古き佳きものを見つめ直してアップデートしているということがわかった」と感じ入っていました。

全国トップクラスの支援で移住者の挑戦を支える!ふくしま12市町村

続いて、ふくしま12市町村移住支援センター東京サテライト 郡司さんから、浜通りへの移住・起業をサポートする主な支援制度が紹介されました。

「ふくしま12市町村起業支援金」は、「補助対象経費の4分の3以内、最大400万円」が補助されるというもの。他地域の相場は「補助対象経費の2分の1以内、最大200万円」とのことで、全国トップクラスの手厚い支援です。

そして1泊2日の「スタートアップツアー」はなんと参加費無料。第2回は2026年10月に実施予定で、航空宇宙・エネルギー・環境リサイクル・農林水産業などの事業の現場を視察予定とのこと。第3回の実施も既に予定されており、2026年11月に医療関連・農林水産業・ロボットなどの事業所を視察予定だそうです。これには松井さんも「参加費無料なんですか?」と驚きの声を上げていました。

ふくしま 12 市町村移住支援センター東京サテライト 郡司さん

また、「ふくしま12市町村移住支援交通費等補助金」は、移住のリサーチや準備にかかる往復交通費の約半額、宿泊1泊あたり約半額(上限2,500円)の補助が、年最大5回利用できるというもの。移住が決まれば単身120万円、世帯200万円の「移住支援金」もあり、医療・介護・福祉分野就業や子育て世帯への加算も受けられます。

さらに、今の仕事を続けながらの移住を考えている人や、テレワークしながら移住を検討したい人におすすめの制度として、宿泊・交通費・コワーキングスペース利用料等を補助する「福島暮らしテレワーク支援補助金」も紹介されました。

最後に、SENQ六本木で5年を過ごし、SENQ田町オープンとともに拠点を移したという浪江町の伝統的工芸品・大堀相馬焼の4代目窯元・松永さんから、「日本酒と大堀相馬焼の生産者を訪ねるツアー」(2026年8月実施)のお知らせがありました。自らの拠点であるSENQ田町に、地元のふくしま12市町村移住支援センター東京サテライトが開所して「奇跡的」「かなりご縁を感じている」と感慨深い様子でした。

まとめ

福島浜通りの食と酒を味わいつくしながら、その食材やお酒に関わる福島の人々や暮らし、そして新たな移住者が浜通りに住まい、事業を起こし、働く未来……と、さまざまな物語に思いを馳せたこの日。交流会で盛り上がる会場の様子からも、きっとこの日が浜通りに新しい風を呼び込むきっかけになるはずと感じられました。

【当日提供されたお酒リスト】

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