「FOOD INNOVATION」をテーマにしたシェアオフィス+コワーキングスペース、SENQ京橋。ここで12月4日、イスラエルの培養肉スタートアップ Aleph Farmsを招き、プロジェクトの紹介や培養肉についてのパネルディスカッション&プライベートネットワーキングイベントが行われました。
ーープログラム
【第一部】Aleph Farms ピッチ
登壇者: Aleph Farms VP Products and Market DevelopmentBusiness Development Gary Brenner 様
Executive Chef 杉浦仁志様
モデレーター:株式会社Eyes, JAPAN 山寺純様
企画者: ルール形成戦略研究所 客員研究員 吉富愛望アビガイル様
【第二部】ディスカッション
ー完璧な赤身肉を再現
現在、培養肉のスタートアップ企業は世界で約20〜30社。そのうちの4社がイスラエルの企業です。そのなかでもAleph Farmsは技術的にハイランクと言われています。冒頭では培養肉とは何か、そしてAleph Farmsの特徴を紹介いただきました。
写真:Gary Brenner 様
「肉の代替のひとつはプラントベースという植物由来の肉(=Cultivated meat、栽培肉)、もうひとつはAleph Farmsが取り組んでいる細胞を培養して作る培養肉(=Cultured meat※)です。
※正式な日本語の言い方が定まっていないため、本記事では便宜的に培養肉と呼びます。
普通、肉の代替として作るのは牛のタンパク質の部分だけですが、Aleph FarmsではMUSCLE CELL(筋細胞)、BLOOD VESSEL CELL(血液細胞)、FAT CELL(脂肪細胞)、SUPPORT CELL(支持細胞、壁となる筋の部分)のそれぞれを培養し、3次元的に組織形成するのが特徴。ひき肉などを作る企業があるなかで、Aleph Farmsだけが唯一、完璧な赤身肉の再現を目的としたスタートアップです」。
ー社会・環境課題を解決するために
「牛を育てて牛肉にするまでに約2年かかります。飼料である大豆やトウモロコシの栽培期間を含めると、より長い時間を費やしていることが想像に易いでしょう。しかし、培養肉は3週間で作ることが可能です。値段は従来の肉よりも高いと言われていますが、時間が経過するにつれて低価格にできる可能性があります。また、アジアではアフリカ豚コレラが流行し、豚の価格が高騰しました。培養肉は無菌状態で作られるため、そういったこともなくなるでしょう。アジアを筆頭として、先進国やその周辺国では中間層の人口が増加し、肉を食べる人たちがどんどん増えています。今後、日本の40%ほどの世代では、もしかしたら動物を殺さずに肉を食べられるようになるかもしれません。
さらに、牛のゲップから放出される大量のメタンガスへの対策や、育てるために必要な水(約500gの牛肉をつくるのに6800ℓの水が必要)などが培養肉では不要です。肉を安価に提供するための抗生物質やホルモン剤を投与することもなく、アニマルウェルフェア(家畜福祉)の観点からも非常に可能性がある分野です。我々が地球上で作っている抗生物質全体の70〜80%が動物向けのものなのです」
「アメリカでは非常に広大な土地を牛のために使っています。この土地を畜産以外のことに使えるような未来がくるかもしれません。アメリカの農業畜産従事者の平均年齢は、実に50〜60歳。日本と同様に高齢化が進んでおり、若い世代は農業や畜産をやりたがりません。その代わりとして培養肉というハイテクな領域があるとすれば、若い世代にとっても非常に面白い産業でしょう。Aleph Farmsは農業の新しい形態、農業2.0を作っていきたいのです」
Aleph Farmsの取り組みはSDGs(※)のうち、2、3番と6、9番、11〜13、15、17番のゴールを達成する技術になりえます。
※持続可能な開発目標(SDGs)
2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標
ーー実際の、赤身の培養肉のスライドも登場
ここで、実際の培養肉を用いた料理のスライド、そして調理動画が流されました。みなさんメモをとる手を止めて、興味深そうに見入っていたのが印象的です。
「こちらが実際に作った培養肉です。見ためにも非常に肉に近い形になっていて、味も良い。ただし、食の好みは各国さまざまですから、私たちの技術を使って、日本やフランス、中国、アメリカとその国の人たちにとって美味しいと思えるような肉を作れるようになるといいと思っています。
肉ではなく自分たちの技術を輸出して、ジョイントベンチャーやローカルのシェフと共にコンセプトを広めることが重要です。日本ではIntegriCultureという培養肉のスタートアップ企業があり、素晴らしい取り組みをしています」
ーー培養肉が流通するための課題とは
多くのメリットを備えた培養肉ですが、まだまだ課題が残ると言います。
「マーケットに流通できる価格にしたいと思っています。そのためには、イスラエルで作った培養肉を輸出するのではなく、各国で作れるようなインフラを整えたいのです。アメリカではもうすでに米国食品医薬品庁(FDA)と米国農務省(USDA)が協力して、細胞培養によってできた培養肉への規制づくりを行う枠組みが形成されました。“培養でできた肉”への心理的な障壁も課題です」
Aleph Farmsは今年(2019年)、モスクワのプロジェクト“3D Bio”と協力して、国際宇宙ステーション内で培養肉を作る実験を、世界で初めて成功させました。私たちが宇宙産の肉を口にする日も、そう遠くないのかもしれません。
ーー【第二部】ディスカッション
ここからは、山寺さん(株式会社Eyes, JAPAN)とExecutive Chefの杉浦さんも登壇して、ディスカッションが行われました。
(写真左から:吉富愛望アビガイル様、Gary Brenner 様、杉浦仁志様、山寺純様)
まずは山寺さんから「培養肉と聞いて気持ち悪いとか、食べたくないとか、そういうイメージがあると思う。そこを克服する必要があるのではないか」と直球の質問。
「まず、わたしは培養肉に対して気持ち悪いというイメージをもっておりません。それは、私がと殺場で動物の解体シーンを見たことがあるからです。また、培養肉は、動物の肉を食べるという選択肢を完全に置き換えるものではなく、選択肢を増やすものだと思います。人口増加によってもっと肉を生産しなければならなくなる日がくるでしょう。その際の食の選択肢の一つになり得ると思います。
我々は最近ヨーロッパとアメリカのマーケットで、培養肉に対する恐れと期待が何かの調査を行いました。日本でも実施したいと思います。地球上のすべての肉は、結局、美味しくて安全で持続的に生産可能であることが必要要件でしょう」
杉浦さんは、培養肉というニュアンスや響きが苦手と感じたのだそう。ただし、危機に直面してから代替をと考えるのではなく、一人ひとりが日常的に地球環境に関する意識を持つことが大切だとも話されます。また、各国をまわった経験から、ヴィーガンを含めた国際的な食文化に対して、日本はもっと理解を深めるべきと感じており、培養肉はその点でも注目したいと語りました。
「10万円の培養肉のコースがあれば参加したい人」との山寺さんの掛け声に、挙手する参加者がちらほら。30万円でも行くと手を挙げた人もおり、このセミナーで培養肉への理解が深まったことを感じます。そこから培養肉の食感を補う香りや発酵といったアイデアに始まり、発酵食品と腸内環境、フードマイルなど、話題はさらに広がります。
会場からは培養肉と牛肉の割合はどうなっていくのか、ビジネスとしてどう成立させるか、流通についてなど、第二部の予定時間を超えるほど実践的な質問が次々と投げかけられ、参加者の関心の高さがうかがる活発なディスカッションとなりました。
❖ 主催者 ❖
Aleph Farms:https://www.aleph-farms.com/
吉富愛望アビガイル様
株式会社Eyes, JAPAN 山寺純様:http://www.nowhere.co.jp/
Executive Chef 杉浦仁志様:https://www.hitoshisugiura.com/
[協力]
TOSSinc 代表 高山仁志様
Progressive Flow Inc. 工藤様
SENQ京橋
SENQでは定期的にイベントを開催中
「FOOD INNOVATION」をテーマとするSENQ京橋では、日本酒の他にも食および食文化、ライフスタイルに関するイベントを多数開催しています。SENQ青山・SENQ霞が関でも、施設テーマに沿ったイベントや、起業・事業成長に関するビジネスイベントなど、数々のイベントを開催しています。
会員限定のイベントも開催していますので、是非、SENQへご入会頂き、ワークスペースとしてのご活用以外にも、協業のきっかけづくりやミートアップの場としてお役立てください。会員様が自ら主催するイベント会場としてのご活用も可能です。
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(ライター:ときよし)