
世界の名立たるハイブランドがThermore(サーモア)社の中綿を採用しています。その所以はどこにあるのでしょうか。多彩なご経歴をお持ちの、日本のセールス責任者 両角直樹さんにお話を伺いました。
-----ご経歴と、Thermore社へのご参画経緯を教えてください。
両角:一番長い経歴はアリタリア航空で、17年ほど在籍していました。退職後、ハワイへ移住し、不動産などの仕事を10年ほど行いました。その後、日本へ戻り、イタリア語や英語の通訳をメインの仕事にしながら、世界的なアーティストのミュージアムや衣装展を立ち上げるなど様々な事業を手がけました。
その後、縁あって某レジェンドプロレスラーの元でしばらく仕事をするのですが、海外選手のマネジメントをしながら、当時その方が務めていた世界各国の親善大使に関する外交も担当するという、とても貴重な経験をさせていただきました。そちらでの務めを終え、イタリア語の通訳として参加したとあるワインイベントでThermore社と出会い、そこから現在に至るまで日本のセールス責任者を任されています。
-----国際色が強く、専門性も高いお仕事を数々されてきたのですね。
そして日本人なら誰でも知っているあの方の元でお仕事をされていたとは・・・。
とても羨ましいです!
両角:はい、常に周りに超有名プロレスラーがいましたよ、笑。
Thermore社での仕事は、英語とイタリア語がビジネスレベルで使えるだけでなく、ハイレベルな接客に加えて高度な営業スキルも必要です。また人生初めてのファッション業界で、同年代の方でも業界歴が30年以上という方もいらっしゃいますし、なによりこだわりの強い方が多い業界ですので、現在に至るまでかなり苦労しました。
とはいえ、ファッションには元々興味があり、自分自身の経歴はやはりイタリアにベースがあるので、とても楽しく仕事をしています。
元々航空会社に勤めていたこともあり、人前に出るのは苦手ではないので、今回のようなインタビューを受けたり、動画サイトに展示会でのセールスの動画が掲載されたりなど、広告塔のような役割も担っています。今回のインタビューは、ミラノ本社の社長もとても楽しみにしてくれているんですよ。
-----両角さん以外にThermore社のお仕事をこなせる方はそうそう現れないのではというくら
い、運命的な出会いを感じますね。
日本でセールスを開始されて4年ですが、日本でのセールスにおいて苦労されていること
や、日本市場の特徴についてどのように感じられていますか?
両角:日本ブランドのご要望に、Thermore社製品のルール上お応えできない部分が多いということが非常にもどかしく感じています。一方で求められる実績は同じですからなかなか厳しいですね、笑。
また、海外ブランドと比較すると日本のブランドは市場が狭いとも感じています。海外に販路を開拓できているブランドが少ないのはもったいないですよね。
日本はアパレル業界の下降傾向も含めて厳しい市場ですけど、このような環境下で、展示会でご案内したブランドから受注を頂けたり、大口の開拓に成功した際には、非常にやりがいを感じますね。
-----Thermore社は、1972年の設立以降、高度な繊維と保温性を保つ、技術開発のパイオニアで
あり続けていますね。
両角:はい。まず、中綿というのは、ファッションのアイテムとして重要視されるものではあまりないですよね。保温性を目的とする素材というと、昔も今もやはりダウンです。また、ヨーロッパのセレブリティが身につけるものは毛皮なんです。近年では、ヨーロッパやアメリカでもサスティナブルな商品が注目されるようになってきていますが、Thermore社がエコロジーの認知が広まる以前の1972年の段階で中綿に着眼したところがまずは驚きであり、パイオニアと言ってよいと思います。
欧米が保温性にこだわるのは、それほど寒いからです。ミラノで冬はマイナス6度ほど、その他にも当たり前にマイナス10度になる地域がたくさんあります。世界的な経済発展によりヨーロッパ以外の国でも毛皮が売れるようになりましたが、その生産過程で動物が酷い扱いをされている動画が世界中に拡散されたことで、大変大きな議論が巻き起こりました。
その議論をきっかけに、エコ大国であるスウェーデンを本社とするH&M社は動物製品の取扱をストップすると宣言し、それ以降、Thermore社製品の中でもペットボトルを100%リサイクルした製品のみを使い続けています。H&M社は、ただペットボトルであれば良いのではなく、出元がはっきり認識できているものしか使用しません(※)。
※Thermore社製品のうち「Global Recycle Standard」認証製品が該当。
-----“エコ”で”扱いやすい”というキーワードがThermore社製品にはあると思っています。
具体的に製品の特徴を教えていただけますか?
両角:一口に「綿」と言ってしまえば確かにただの綿のように見えますが、実はこの中綿の構成について、Thermore社は世界特許を取得しています。
中綿の構成には二つの特徴があり、一つは保温性を高めるために最も重要な要素である“空気の層を保有する”ための特殊な構造です。細かい繊維が微妙に絡み合うことで常に一定の厚さの層を保ち、そこに空気を貯めています。一度剥がしてしまうと二度と元には戻りませんが、剥がさない限りは同じ厚さの層を形成し続けて保温性を保ちます。
二つ目は、通常、綿を加工するためには、綿が表に抜け出てこないように不織布でくるむ必要があるところ、Thermore社の製品は表面加工によりそれが不要だということです。中綿と表面の間に余分な生地が不要で、ダイレクトに縫製することができます。これにより、軽さ、柔らかさに加えてコストも大きく変わってきます。メーカー様には大変喜ばれますね。
-----軽さや柔らかさは身につける側にとっても大きなメリットですね。
両角:そうですね。Thermore社のシート綿はダウンのようにモコモコしないため、デザイン性を高く表現することができます。そういった点もハイブランドに選ばれる理由だと思います。デザインが目立たなくてはいけませんから。
にもThermore社の中綿が使用されています。
-----人気の製品はどちらになりますか?
両角:明確に「今年から」なのですが、100%リサイクルの素材を使った製品が人気です。ヨーロッパやアメリカではもうメインになってきていますね。
中でも、今年11月1日に全世界同時発売した商品“エコダウン”は非常に好評を頂いています。“エコダウン”は、これまでのシートものではない、ファイバーものの素材を初めて使用しているため、他の製品と異なりふわっとした柔らかい見た目をしています。今年は特に世界的にダウンの需給バランスが崩れて価格が高騰したこともあり、この製品を発表した5月にはものすごい数のお問い合わせを頂きました。
Thermore社のリサイクル製品は、製品のリサイクル含有物、加工流通過程管理、社会的・環境的慣行と化学規制を検証する国際的な基準である「Global Recycle Standard」、または、繊維業界において環境・労働・消費者の観点における持続可能なサプライチェーンを経た製品に付与される「bluesign APPROVED」の認証をうけています。
Thermore社の環境配慮、動物愛護の観点は多くのブランドより評価を頂き、製品を採用頂いています。ニューヨークの紳士服ブランドであるブルックス・ブラザーズもその内の一社で、来年同社とPRのコラボを予定しています。
日本では、昨年から急にストレッチブームが起きています。スポーツブランドは揃ってストレッチ素材を使っていますよね。Thermore社にはストレッチの中綿があるのですが、業界でもまだ珍しく、昨年はたくさんのお引き合いを頂きました。
-----時代が求めるものをちょうどよいタイミングで新発売されているのですね。
両角:はい。新製品の開発はミラノの研究所で数年がかりで行うのですが、昨年今年とブームにぴったり合ったリリースができているというのは、巡り合わせですね。
-----ありがとうございました。最後に、オフィスについてお聞かせください。SENQ青山に入居
してよかったと思われることは何でしょうか。
両角:何より立地が良いことです。ファッション業界において青山にオフィスがあるということは最重要であり最低限の条件です。まして駅からすぐですから、お客様をお招きした際も喜ばれますね。
さらに、オフィスも綺麗で、会議室やレセプショニスト対応もあるため、急にお客様をお招きする際も、きちんとしたおもてなしでお迎えできます。最高の環境で仕事ができていますね。100%満足しているので、しばらくは移転の予定はありません、笑。
おわりに
両角さんとお話しているのがとても楽しくてあっという間に時間が経ってしまいました。重いダウンやジャケットは肩こりと頭痛を招くのでなるべくスッキリ軽いコートを探しているところでしたのでとても勉強になりました。これからは保温素材にも注目して探していこうと思います。
(インタビュー:三國 志乃)
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Thermore: http://www.thermore.com/jp/