最近よく耳にする「オープンイノベーション3.0」とは? 2.0とどう違う?
ここ数年、「オープンイノベーション」という言葉をよく耳にするようになりました。オープンイノベーションは限られた社内資源を有効に活用しつつ、新たな知恵やノウハウを取り入れながら、革新的なサービスを生み出すのに欠かせない戦略です。
そのオープンイノベーションという概念自体が、時代とともに進化しつつあります。現在、よく耳にするのが「オープンイノベーション3.0」。一体、これまでのオープンイノベーションとどのような違いがあるのでしょうか。改めてその違いを確認し、実際のビジネスで取り入れられる素地を作りましょう。
オープンイノベーションは時代とともに移り変わる
クローズドからオープンへ
オープンイノベーションとは、自社だけでなく他の企業や大学、研究機関、 地方自治体、社会起業家など異業種や異分野が持つ技術、アイデア、サービス、 ノウハウ、データ、知識などを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや新製品、サービスなどを開発する経営戦略のこと。社内の資源に頼らず、ボーダーレスにさまざまな分野の組織と繋がることで、イノベーションを創出するきっかけを生み出します。
これまでの日本はクローズドイノベーションという、自社の研究や技術のみで画期的な新製品(商品)・サービスを提供するスタイルが一般的でしたが、オープンイノベーションは経済合理性に適う非常に合理的な考えであり、また、社会のグローバル化に伴い、経営にも国際競争力が求められるようになったことから、現在では日本でもオープンイノベーションを採用する企業が増えています。
オープンイノベーションの誕生
オープンイノベーションとは、2000年代の始め頃に米ハーバード大学経営大学院教授だったヘンリー・チェスブロウ博士により提唱された概念です。
博士は、「オープンイノベーションとは、目標達成のための知識のインフローとアウトフローを活用して内部のイノベーションを加速し、イノベーションそのものの外部活用によって市場を拡大することである」と定義しています。誕生以後、大きな注目を集めるようになり、これまでにインテルやIBMなどに採用され、大きな成果をあげてきました。
一般企業だけでなく、政府や公共団体など公的な組織もこの考えには非常に注目しており、日本政府も、次世代の産業を生むエコシステムとしてオープンイノベーションに注目しています。
オープンイノベーションの概念は時代とともに移り変わる
時代が変われば、求められる経営戦略も変わります。そのため、オープンイノベーションは誕生以後、時代とともにトレンドを変化させてきました。
1.0、2.0と進化を重ね、 現在のトレンドは「オープンイノベーション3.0」。それぞれの特徴は以下のようになります。
オープンイノベーション1.0
自社が持っていない技術や資源を持っている他社やスタートアップなど、他者と協業してイノベーションを実現する試みのこと。従来はクローズドイノベーションが一般的だったが、2000年代に入ってオープンソース技術が急速に進歩したことにより、資金力だけでは技術優位性を維持するのが困難になった。
そのため、自社が独自に有する技術については従来通りのクローズドイノベーションを貫く一方で、オープンソース技術の優れた部分については外部リソースを活用するという、いわばハイブリッドな取り組みが見られるようになった。1対1の連携が基本(企業対大学・研究機関、大企業対ベンチャー企業など)。
オープンイノベーション2.0
ビジネス構造が複雑化するにつれ、オープンイノベーション1.0のように「1対1の連携」では対応しきれない場面も多くなってきた。そこで誕生したのがオープンイノベーション2.0。
1.0とは違って企業、大学・ 研究機関、政府・自治体、市民・ユーザーなど多様な関係者が多層的に連携・共創し合う循環体制(つまり、多対多)の連携関係をベースに、イノベーションを経済的利益追求の手段としてだけでなく、社会課題の解決に活用するために実施していく概念である。
オープンイノベーション3.0
デジタル化が進む社会では、メーカーはモノを作り、販売して終わりではなく、ビッグデータなどを駆使し、販売後のサービス向上やソリューションの提示に取り組む必要性が出てきた。しかも、技術が進展する中で、企業に求められるソリューションの内容は多岐にわたるようになっている。企業はひとつずつバラバラのサービスを効率化するのではなく、全体最適の視点でよいものを作り上げなければならない。
そこでイノベーションを起こしていくために、大企業がインテグレーター的存在となり、オーガナイザーを務めることで、産官学という業界の垣根を越えた複数のプレイヤーが連携。「多対多」のオープンイノベーション2.0とは異なり、3.0では「1対多」の形態を基本とする。
オープンイノベーション3.0の時代。企業はどうあるべきか?
ビッグデータ・AI・IoT の活用が「3.0」に進化させた
このように、オープンイノベーションの概念は「1対1」の1.0、「多対多」の2.0、そして、「1対多」の3.0へと進化してきました。
特に、2.0から3.0への進化を支えたものは、ビッグデータやAI、IoTの急激な進化です。
IoT の普及によって、インターネットビジネスが BtoC から BtoB の世界に広がりました。近年、モノとモノが インターネットで結ばれ、それが大きな価値を持つようになって、業界の垣根を越えたオープンイノベーションが広がっています。その典型的な事例が、自動車産業です。
自動車メーカーは従来、自動車の販売や製造で利益をあげてきましたが、社会構造の変化から、ただ車を作って売るだけではなく、「移動サービス」というソリューションが社会に広く求められるようになってきました。そのため、自動車メーカーは自動車というモノ単体を製造・販売するビジネスだけでなく、移動という価値を提供するサービス(MaaS:Mobility as a Service)を視野に入れて、イノべーション戦略を組み立てなければならなくなったのです。
その典型が、トヨタ自動車とソフトバンクの連携でしょう。これらの合弁企業である「モネ・テクノロジーズ」には、ホンダや日野自動車などの自動車メーカーも出資を決めています。このように「1 対 1」 の関係ではなく、業界全体あるいは業界を越えたのがオープンイノベーション3.0 なのです。
キーストーンかニッチプレイヤーか
このような時代で、一体、企業にはどのような姿勢が求められるのでしょうか。
「1対多」のプレイヤーが活躍するオープンイノベーション3.0では、さまざまな企業がボーダーレスに関わります。そのためまずは、自社がキーストーンを目指すのか、あるいは、ニッチプレイヤーを目指すのか、明確に意思表示することが、オープンイノベーションと向き合うカギになります。キーストーンとは、全体のパイを拡大するために行動し、プラットフォームとして機能する組織のこと。一方ニッチプレイヤーとは、自社の強みを提供してビジネスエコシステムの柔軟性や多様性を担う組織のことです。
通常、キーストーンは大企業、ニッチプレイヤーは中小企業と役割が分担されますが、中小企業だけでなく、より小規模なベンチャー企業やスタートアップにも、ニッチプレイヤーとしての役割が期待されています。
ベンチャー企業やスタートアップは、オンリーワンの技術や商品などの開発により、“個性的な技術力”という点で他社との差別化ができています。その反面、大企業に比べれば資金や人材など、経営資源の面で不足していることは否めません。しかし、ベンチャー企業やスタートアップのように小規模な組織ならではの俊敏性や機動力は、市場において大きな優位性を持っています。
このような自社ならではの特徴を踏まえながら、固有の市場でビジネスを作っていくニッチな戦略が、今後ベンチャー企業やスタートアップには求められていくでしょう。そのような技術力を活用してビジネスエコシステムに参画することで、オーガナイザーであるキーストーン(多くの場合大企業)と補完関係に立つことができるようになり、より、イノベーティブな取り組みが可能になるのではないでしょうか。
(ライター:鈴木 博子)