従業員の副業を解禁するメリットと注意点
政府も推進する企業の副業解禁
近年、日本の企業の副業解禁は広がりつつあります。特に大きく動き出したのが、日本の「副業元年」ともいわれる2018年です。
この年の1月に、就業規則の雛型として厚生労働省が公開していた「モデル就業規則」の改定が行われ、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」という規定が削除されて、副業や兼業についての規定が新たに加えられました。また、同時期に策定された「副業・兼業の推進に関するガイドライン」には、副業・兼業を行う際の労働時間管理や健康管理などが示されており、改定が重ねられています。
同ガイドラインでは、「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由」であることが示されています。また、多様なキャリア形成を促進する観点から、副業の可否や条件について企業が公表することが望ましいとも述べており、政府として副業を推進する姿勢を明らかにしています。
副業・兼業を認める企業は増加傾向に
副業の推進は、政府が力を入れている「働き方改革」の一環でもあります。では、日本の状況はどうなのでしょうか。日本経済団体連合会が2022年10月に公表した「副業・兼業に関するアンケート調査結果」(回答数275社)によると、回答企業の70.5%が社外での副業・兼業を認めている/認める予定としており、規模が大きい企業ほどその傾向が強いことが報告されています。
社外への送出を認めているか否か
(図は日本経済団体連合会「週刊 経団連タイムス 2022年10月27日 No.3564」より)
その一方で、別の調査では興味深い結果が出ています。パーソルイノベーション株式会社のプレスリリースによると、2022年10月に行った人事担当者を対象とした企業規模別「副業の実態調査」では、副業を認めているスタートアップの割合が70%を示し、大企業/大企業グループ会社や中小企業と比べて最も高かったといいます。
企業規模別に見る副業認可の割合
(図はパーソルイノベーション株式会社のプレスリリースより)
また、副業を行っている従業員の割合については、不明の回答を除いてどの規模の企業も「1~9%」と答えた割合が最も高いものの、スタートアップでは「80%以上」と答えた企業が14.3%に及んだことも報告されています。
企業規模別に見る副業実施の割合
(図はパーソルイノベーション株式会社のプレスリリースより)
調査対象となる企業の事業内容や特性、所在地などによって結果が変わる可能性は考えられますが、スタートアップを中心に副業解禁が進んでいる様子がうかがえます
副業を解禁するメリットは?
副業の解禁によって、企業はどのようなメリットを期待できるのでしょうか。主なものを以下に紹介します。
・従業員がスキルアップする機会を得られる
新たな知識や経験を得て従業員がスキルアップすれば、本業での生産性の向上につながります。副業の業務が本業に近ければ近いほど、この点における企業側のメリットは大きくなるでしょう。また、副業を通じて積極的にスキルを磨こうとする姿勢は、同僚やチームなどの周囲を刺激してポジティブな影響を与えます。
・社外の人脈を広げられる
副業を通じたネットワークの拡大も、期待されるメリットの一つです。社外での活動を通じて得た出会いが、本業での新たなパートナーシップやビジネスチャンス、優秀な人材の獲得につながることもあるでしょう。また、新たな視点やアイデアを得ることで、イノベーションの創出も期待できます。
・優秀な人材の離職防止につながる
副業という選択肢があれば、もっと自分のスキルを磨きたい、違う場所で能力を試したいと考える優秀な人材も、離職せずに希望をかなえられます。フレキシブルで働きやすい環境は、従業員満足度を高め、採用面でも有利に働きます。また、副業解禁を公表することで、企業のブランドイメージ向上も期待できるでしょう。
副業解禁にあたっての注意点
副業にはさまざまなメリットが期待される一方で、解禁がかえって企業にとってデメリットとなる可能性も考えられます。特に注意したいのが、以下のようなポイントです。
・本業のパフォーマンスが低下する
長時間労働や休みがない状況が続くなど、従業員が副業と本業のバランスをうまくとれていない場合は、本業のパフォーマンスにネガティブな影響を与えかねません。集中力や生産性が低下し、ミスも発生しやすくなるでしょう。
・情報漏洩のリスクがある
副業を行うことで、意図せずに従業員が所属企業の機密情報を漏洩してしまう可能性も考えられます。また、本業の業務に近い場合、そこで得た知識やスキルを本業に活かせる反面、利益相反にならないように十分に注意する必要があります。
・労働時間の管理が難しくなる
従業員が雇用契約を結んで副業を行う場合は、原則として、本業と副業それぞれの勤務先の労働時間を通算して管理しなければなりません。とはいえ、副業先の勤務状況まで細かく管理するのは難しく、あらかじめ上限をすり合わせておくなどの工夫が必要になるでしょう。
副業解禁はどう進めればいい?
では、実際に副業を解禁している企業は、どのような仕組みを整えているのでしょうか。厚生労働省の「副業・兼業に取り組む企業の事例について」から、特に人的リソースなどに限りがあり導入のハードルが高いと思われる、スタートアップや中小企業の事例を紹介します。
1. BASE株式会社の事例
副業を社員の自己実現の手段の一つと考えるBASEでは、人事部や所属のマネージャーが審査を実施し、役員が最終的に許可を出すフローで副業を解禁しています。なお、人事部では許可基準への適合を、所属のマネージャーは本業に支障が生じないかを審査しており、1年ごとの更新が必要です。
許可の基準として、「同業・競合他社ではない(利益相反行為がない)こと」「反社会的ではないこと」「副業の時間が長すぎないこと」「本業に支障を来さないこと」などを挙げ、労働時間については、本業の時間外労働と副業の労働時間を合わせた上限(1カ月80時間)を設定して管理しています。
2. フリュー株式会社の事例
社員からの相談が増加したことを受け、フリューでは許可制での副業が解禁されています。希望者は、上長の承認を経て申請書を人事部門に提出し、同部門での審査の後、役員が最終的に許可を出しています。また、副業を許可する条件として、「事業の拡大につながる可能性があること」「社会的意義があること」を挙げており、競業や情報漏洩のおそれがある副業は禁止です。
副業の時間帯や時間数に制限は設けていませんが、非雇用での実施のみ解禁しており、時間外労働が多い場合には副業を許可していません。また、副業を開始して数カ月間は、休みがとれているかなど個別のヒアリングを行い、重点的にケアしているといいます。
今後さらなる拡大が予想される、企業の副業解禁
政府も「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが適当」と明言し、副業を実施できる環境整備を奨励しており、副業を解禁する企業はこれからさらに増えていくことが予想されます。現在、副業を禁止している企業は、今後の対応について見直す時期に来ているといえるでしょう。
とはいえ、副業に力を入れて本業の業務がおろそかになっては本末転倒です。また、仕事のパフォーマンスだけではなく、従業員の健康面にも十分に配慮する必要があります。厚生労働省ウェブサイト内の「副業・兼業」のページでは、各種ガイドラインをはじめさまざまな資料を公開しており、情報も随時更新されています。先行事例なども参考に、自社に合った取り組み方を考えてみると良いでしょう。