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中小企業やスタートアップでも進む「健康経営」。取り組みのポイントは?

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中小企業やスタートアップでも進む「健康経営」。取り組みのポイントは?

健康経営とは

健康経営とは、従業員の健康管理に関する取り組みを「コスト」ではなく「投資」と捉え、経営的な視点で戦略的に実践することをいいます。これは、従業員の健康維持・増進に関する取り組みが組織の活性化をもたらし、ひいては企業価値や業績の向上につながるという考えに基づいています。

健康経営が日本で広まった経緯

健康経営の概念は、もともとはアメリカのロバート・H・ローゼン博士が自身の著書『The Healthy Company』(1992年)の中で提唱したものです。日本では、2006年に発足したNPO法人 健康経営研究会の活動を通じて知られるようになり、2013年に閣議決定した「日本再興戦略」をきっかけに推進する動きが本格化しました。

日本再興戦略では国民の健康寿命の延伸を掲げており、これを受けて設置された次世代ヘルスケア産業協議会が、2015年に「アクションプラン2015」をとりまとめています。その中で、具体策として「企業による健康経営の取り組み推進」が明記され、国として促進する方針が表明されたことから、企業の健康経営が重視されるようになったのです。

健康経営が注目される背景

以前は、従業員の健康管理は自己責任であり、組織がコストをかけて取り組むものではないと考える企業も少なくありませんでした。しかし、従業員が健康でなければ業績の向上を図るのは困難であり、従業員の健康を重視する経営スタイルは採用においてもポジティブな評価につながります。さらに、近年問題視されている医療費の増加は、企業が負担する社会保険料にも影響を与えます。

こうした状況を背景に、健康経営を積極的に取り入れる企業が増えています。健康経営はリターンを期待できる投資であり、企業のリスクマネジメントにもつながる取り組みといえるでしょう。また、事業の規模が小さくなるほど一人の従業員の健康問題が組織に及ぼす影響は大きく、「アクションプラン2015」の中でも中小企業の健康経営の促進に力を入れることが表明されています。

健康経営の取り組みを「見える化」する顕彰制度

健康経営を推進するため、経済産業省は企業の優良な取り組みを「見える化」する施策を実施しています。その一つが顕彰制度であり、2014年度からは「健康経営銘柄」の選定を東京証券取引所と共同で行っています。東京証券取引所の上場企業のうち、特に優れた健康経営を実践している企業を公表するもので、投資家の判断材料にもなっています。

また、2016年度には「健康経営優良法人認定制度」もスタートしています。これは、地域の健康課題に即した取り組みや、日本健康会議(※)が進める健康増進の取り組みをもとに、優良な健康経営を実践する法人を顕彰する制度です。大企業などを対象とする「大規模法人部門」と、中小企業などを対象とする「中小規模法人部門」とに分けられます。

健康経営に係る顕彰制度健康経営に係る顕彰制度
(図は経済産業省「健康経営の推進について」より)

※日本健康会議とは、国民の健康寿命の延伸と医療費の適正化について、民間組織が連携し行政の全面的な支援のもと、実効的な活動を行うために組織された活動体のこと。

中小企業でも健康経営の認知度が大きく向上

実際のところ、日本では年を追うごとに「健康経営優良法人認定制度」の申請数と認定数が増えつづけており、政府が推進に力を入れている中小企業のデータを見ても、制度開始当初と比べて大幅に増加していることがわかります。

健康経営優良法人(中小規模法人部門)の申請・認定状況の推移(2023年3月8日時点)健康経営優良法人(中小規模法人部門)の申請・認定状況の推移(2023年3月8日時点)
(図は経済産業省「健康経営優良法人2023(中小規模法人部門)認定法人 取り組み事例集」より)

大同生命保険が全国の中小企業経営者に実施したアンケートの結果をまとめた「大同生命サーベイ 2022年7月度調査レポート」では、「健康経営の意味や内容を知っている」と答えた割合が32%になったことが報告されています。2017年3月調査では10%、2021年9月調査では22%であったことを踏まえると、健康経営の認知度が明らかに向上していることがわかります。

また、同レポートでは、健康経営を認知している企業の中で、「健康経営に取り組んでいる」あるいは「取り組みを検討している」と答えた割合が68%に及んだとの報告も見られます。そのうち16%は、新型コロナウイルスの感染拡大を機に取り組みを始めており、パンデミックが健康経営に対する意識向上に影響した様子もうかがえます。

中小企業での普及拡大を後押しするインセンティブ措置

さらに、中小企業に対する健康経営の普及拡大策として、以下の補助金審査の加点対象に「健康経営優良法人に認定された事業者」を追加するというインセンティブ措置も導入されています。

  • ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
  • IT導入補助金
  • 事業継承・引継ぎ補助金
  • Go-tech補助金
  • 事業再構築補助金

こうした施策を背景に、中小企業やスタートアップで今後さらに認知度が高まる可能性は大いに考えられます。

健康経営にどう取り組めばいい?

いざ健康経営に取り組もうとしても、何からどのように始めればよいか悩むこともあるでしょう。経済産業省が作成した「企業の「健康経営」ガイドブック ~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版) 」(以下、ガイドブック)の「第二章 健康経営をはじめよう」では、導入時の具体的な手順を説明しています。その内容をもとに、ポイントをまとめます。

1. 経営理念・経営方針への位置付け

まずは経営トップが健康経営の意義や重要性を十分に認識し、その理念を社内外に示すことがとても大切です。健康経営を経営理念の中に明文化して、従業員や投資家を含むさまざまなステークホルダーに企業としての取り組み姿勢を発信しましょう。

2. 組織の体制づくり

健康経営を継続的に推進するため、専門部署を設置することが理想ですが、それが難しい場合には、専任もしくは兼任の人員を選定します。その人が専門の知識や資格を持たない場合は研修などを実施します。例えば、東京商工会議所が開催している「健康経営アドバイザー」の育成プログラムを利用するのも一つの手です。

3. 制度や施策の実行

健康経営を実践する上では、経営トップや担当者(担当部署)、産業保健スタッフ、従業員などの連携が欠かせません。具体的には、以下の取り組みが必要です。


・従業員の健康状態を把握する
従業員の健康状態や健康課題を把握するとともに、健康診断の結果などの健康情報を活用して、施策の検討に役立つ基礎データを作成します。従業員の日常的な健康活動、身体活動に関するデータの収集も効果的です。例えば、歩数計の配布や健康関連のアプリの導入なども有効でしょう。
・計画(成果目標)を立てる
自社の健康課題に沿った施策を計画し、その評価や改善を行えるように成果目標を立てます。着手できていない課題があれば、内容を整理した上で、必要に合わせて健康保険組合などとの連携も検討します。また、外部の事業者の活用も選択肢になるでしょう。
・計画に沿って施策を実行する
立てた計画に沿って、施策を実行します。ガイドブックでは、例として職場の禁煙ルールの明確化や休暇取得の促進などをあげています。

4. 取り組みの評価

健康経営優良法人の認定にあたり、中小規模法人部門では「健康経営の取り組みに対する評価・改善」が、大規模法人部門では「健康経営の実施についての効果検証」が必須要件となっています。取り組みの評価について、ガイドブックでは、ストラクチャー(構造)・プロセス(過程)・アウトカム(成果)の3つの視点で実施することが重要としています。

中小企業やスタートアップでも進む「健康経営」

中小企業・スタートアップの取り組み事例

健康経営に関する具体的な施策は、企業によってさまざまです。経済産業省が作成した「健康経営優良法人2023(中小規模法人部門)認定法人 取り組み事例集」の中から、参考になる取り組みを紹介します。


・技術エンジニアリング業「株式会社ケィテック」

残業時間が膨大になり、健康課題やメンタル不調を抱える従業員が多く見られたことが健康経営に取り組むきっかけになりました。スポーツ施設の利用や睡眠時間、月間平均歩数、健康セミナーの視聴、禁煙達成など10の健康実施項目を設定し、達成度に応じたポイントを付与。その程度に合わせてQUOカードを進呈する取り組みを実施しています。

・技術エンジニアリング業「株式会社ケィテック」

残業時間が膨大になり、健康課題やメンタル不調を抱える従業員が多く見られたことが健康経営に取り組むきっかけになりました。スポーツ施設の利用や睡眠時間、月間平均歩数、健康セミナーの視聴、禁煙達成など10の健康実施項目を設定し、達成度に応じたポイントを付与。その程度に合わせてQUOカードを進呈する取り組みを実施しています。

・製造業「静岡部品株式会社」

取り組みのきっかけは、若い従業員の病気退職です。開始当初は病気の治療・再発予防がメインでしたが、徐々に予防重視の施策へとシフトしました。具体的には、上司との面談の中で健康について相談できるように面談表を変更し、ラジオ体操の実施やヘルシー弁当の提供を行うほか、静岡県との連携で血液測定を習慣化する促進事業を開始しています。

・保育事業を含むサービス業「株式会社エルパティオ」

健康診断の結果を会社としてフォローできていないという課題に気付き、取り組みを開始しました。具体的には、従業員が健康課題に向き合えるように、3カ月に1度、健康診断での指摘や健康に関する悩みを記入する「健康管理ノート」を作成。ノートに記入した内容は、毎月の健康相談や社長面談など、さまざまな場面で活用されています。

取り組みの評価・改善が、導入を成功させる鍵に

健康経営に関する施策は、一時的に行うだけでは十分な効果は得られません。健康経営の重要性を社内でしっかり共有し、全社的に取り組む必要があります。

また、施策の実施後は、次の取り組みに活かせるように評価を行うことも重要です。具体的な評価方法については、ガイドブックの「第三章 健康経営の評価について」で詳しく解説されているので、参考にするとよいでしょう。

従業員の健康維持・増進は、個人の業務のパフォーマンス向上にとどまらず、企業価値や生産性の向上、リスクマネジメント、人材の確保、医療費の削減など、さまざまなメリットをもたらすことがわかっています。ガイドブックや顕彰を受けた企業の事例を参考に、自社の規模や事業形態に合わせた導入方法を検討してみてはいかがでしょうか。

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