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ハイブリッドワーク時代に考えたい「つながらない権利」

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ハイブリッドワーク時代に考えたい「つながらない権利」

つながらない権利とは?

「つながらない権利(Right to Disconnect)」とは、勤務時間外や休日に仕事上の連絡が入ったとき、その対応を拒否できる権利のことをいいます。2017年に、世界ではじめてフランスでつながらない権利が法制化され、労使間での協議が義務付けられたことをきっかけに広く知られるようになりました。

その後、イタリアやカナダ、イギリス、フィリピン、ベルギー、ニューヨーク州などの国や都市にも法制化が広がりました。日本ではまだそうした動きは見られないものの、テレワークやハイブリッドワークの普及を背景に、つながらない権利の必要性が注目されています。

ICTの発展などによって、時間や場所にとらわれずに働くことができるようになった反面、“いつでも連絡がとれてしまう”状況も生まれています。帰宅している途中に上司から連絡が入ったり、休日に取引先から相談を持ちかけられたりと、仕事とプライベートの境界線が曖昧になり、かえって業務量が増えたケースも見られます。

人的資本経営の重要性も増す中で、従業員のウェルビーイングの保持・増進は、企業の持続可能性を向上させるための重要なアプローチとしても鍵を握ると考えられています。

つながらない権利に関する日本の現状

つながらない権利に関する日本の状況について、複数の調査結果をもとに詳しく見ていきましょう。

ビッグローブ株式会社が、全国の20代~50代の有職者の男女892人を対象に行ったアンケート調査(2022年12月)によると、41.5%の人が業務時間外に電話やメール、チャットなどで業務対応をしたことがあると答えています。そして、つながらない権利に対する配慮が必要と考える割合は、74.9%に達しました。

つながらない権利に対する配慮の必要性

つながらない権利に対する配慮の必要性
(画像はビッグローブ株式会社のプレスリリースより)

また、日本労働組合総連合会が18歳~59歳の有職者を対象に調査を実施し(2023年9月)、1,000人の有効サンプルを集計したところ、業務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡が入ることがあると答えた雇用者の割合は72.4%となり、コロナ禍前より8.2ポイント上昇したことが報告されています。業種別では建設業が最も高く、医療・福祉、宿泊業・飲食サービス業がそれに続いています。

勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡が入る頻度

勤務時間外に部下・同僚・上司から業務上の連絡が入る頻度
(画像は日本労働組合総連合会「“つながらない権利”に関する調査2023 」より)

さらに、“働くこと”と“休むこと”の境界を明確にするために、勤務時間外の部下・同僚・上司からの連絡を制限する必要があると思うと答えた雇用者は66.7%に及び、取引先からの連絡の制限についても67.7%の人が必要と答えています。また、つながらない権利によって勤務時間外の連絡を拒否したいと思う割合が72.6%に及んだ一方で、その権利があっても今の職場では連絡の拒否は難しいと答えた割合は62.4%に達し、実際に権利を行使できるか疑問を感じている人が多いことがわかります。

では、どの程度の時間、つながっている状態が続いているのでしょうか。パーソル総合研究所が20~59歳男女を対象に行った「第八回・テレワークに関する調査/就業時マスク調査」(2023年7月)で「つながっている時間」を簡易推計したところ、仕事の連絡に応答した「最も早い」時間から「最も遅い」時間までの合計は月間232.3時間でした。

職種別の「つながっている時間」の推計結果

職種別の「つながっている時間」の推計結果
(画像はパーソル総合研究所「第八回・テレワークに関する調査/就業時マスク調査」より)

職種別では、営業が最も長く月間270.1時間で、情報処理・通信技術職が月間270.0時間とそれに続いています。この2職種は月あたりの業務時間外連絡回数も30回を超えており、単純計算で毎日1回の業務時間外連絡が生じていることになります。

その一方で、時間外の業務連絡について「自社に規制がない」と回答した割合は69.0%に及んでおり、従業員任せになっているようです。業種によっても結果にバラつきは見られますが、現状に対して十分なフォローができていない様子が伺えます。

つながらない権利に対する日本政府の見解は?

こうした現状を背景に、日本政府はどのような見解を示しているのでしょうか。

厚生労働省が2021年に公開した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」の中では、「テレワークを実施している者に対し、時間外、休日又は所定外深夜のメール等に対応しなかったことを理由として不利益な人事評価を行うことは適切な人事評価とはいえない」と言及しています。

また、時間帯に関係なく業務に関する指示や報告が行われやすくなること、仕事と生活の時間の区別が曖昧となることを懸念点として挙げた上で、長時間労働による健康障害を防止し、ワークライフバランスの確保に配慮するための手法として以下を提案しています。

・メール送付の抑制

役職者、上司、同僚、部下による時間外のメール送付の自粛を命じることが有効。電話も含め、時間外における業務の指示や報告のあり方、必要性、指示や報告が行われた場合の対応の要否について、各事業場の実情に応じてルールを設けることも考えられるとしています。

・システムへのアクセス制限

所定外深夜・休日は、事前に許可を得ない限りアクセスできないように使用者が設定することが有効としています。

このほか、時間外労働が可能な時間帯・時間数の設定や、注意喚起、労働管理システムを利用した自動警告の表示などが例として示されています。テレワークを対象としたガイドラインではありますが、時間外の業務連絡はテレワークやハイブリッドワーク下で起こりやすいため、取り組みの参考になるのではないでしょうか。

つながらない権利に配慮した日本の事例

日本の企業では、どのようにしてつながらない権利に配慮した働き方を導入しているのでしょうか。ここでは、2社の事例を紹介します。

1. イグナイトアイ株式会社の事例

HR Tech事業を展開するイグナイトアイ(現Thinkings株式会社)では、深夜や早朝、土日、祝日などに仕事のメールや電話をすることを禁止し、取引先にも対応できないことを前もって通知しています。そのために、普段から業務で使用しているツールを活用しています。

例えば取引先に対しては、Gmailでメールを受信したときに、不在の連絡と緊急連絡先を自動返信メールでお知らせするように設定しているとのこと。そのほか、slackの「休暇中ステータス」や「おやすみモード」で業務時間外であることを伝えたり、Googleカレンダーで設定された業務時間外に、誰かがミーティングを設定するときにアラートが表示されたりします。

同社は、休む権利・つながらない権利を当たり前にするためには、効率的に働こうというマインドや、普段からいつでも業務を引き継げる状態で仕事を管理するなど、各自が自立して考えて働くことが不可欠だと語っています。

2. 株式会社イルグルムの事例

マーケティングDX支援事業などを行うイルグルムは、休暇中の会社とのコンタクトを一切禁止する「山ごもり休暇制度」を導入しています。これは、全社員を対象としたもので、年に1回、9日間の連続休暇を取得することが義務付けられています。

制度の目的は、普段の仕事による疲れを解消し、社員の心身のリフレッシュを促進すること、そして休暇のために引き継ぎをさせることで、業務の共有と属人性の排除を行うことにあります。この引き継ぎが各自の業務内容を整理する機会ともなり、引き継がれた側の視点が加わることによって新たな改善点が浮かび上がることもあるといいます。

権利を形骸化させない取り組みも重要

テレワークやハイブリッドワークの普及に伴い、日本でもつながらない権利への関心が高まっています。世界各地で法整備が進む一方で、日本はまだ前述のガイドラインの発表にとどまっており、今後の動きに注目したいところです。

とはいえ、つながらない権利が法制化されたとしても、それが形だけのものになっては意味がありません。また、医療や福祉など緊急の対応が求められる職種では、一律に業務時間外の連絡を禁止するのは難しいこともあるでしょう。そして、多くの人がつながらない権利を求める一方で、少数派ながらも業務時間外の連絡にフレキシブルに対応したいという人がいることにも配慮する必要があります。

つながらない権利の法整備はステップの一つに過ぎず、具体的な施策は各企業に委ねられます。まずは現状を把握することが、その第一歩となるでしょう。つながらない権利への関心の高まりをきっかけに、社内のコミュニケーションのとり方について見直してみてはいかがでしょうか。

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