職場における心理的安全性の作り方
心理的安全性とは?
心理的安全性とは、もともとは1965年にマサチューセッツ工科大学のエドガー・シャイン教授とウォレン・ベニス教授によって提唱された概念です。その後もさまざまな研究が進められ、1999年にはハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が「心理的安全性がチームの学習行動を促進し、パフォーマンスを向上させる」という研究結果を明らかにしました。エドモンドソン教授は「Building a psychologically safe workplace」(TEDxTalks)の中で、心理的安全性を、「アイデアや質問、懸念、間違いを発言しても、罰せられたり屈辱を受けたりしないという信念」と説明しています。
仕事をする中で、質問に対して「そんなことも知らないの?」と言われたり、業務の改善について提案したときに「従来のやり方を否定するのか」と反発されたりするなど、自分の発言を後悔してしまうような経験をした人もいるでしょう。そうした環境は、心理的安全性が高い状態とは言えません。
では、心理的安全性が高い職場とはどのような環境を指すのでしょうか。具体的には、以下のような例が挙げられます。
- わからないことを遠慮せずに質問できる
- 失敗を隠さずに報告できる
- 自分の意見やアイデアを率直に出せる
- 上下関係を気にせずに、間違いを指摘したり懸念を述べたりできる
- 不安な気持ちを伝えられる
職場の心理的安全性に期待される効果
職場の心理的安全性が重視される大きなきっかけとなったのが、2012年にGoogleが発表した「プロジェクトアリストテレス」です。プロジェクトを通じて効果的なチームの条件を探ったところ、重要なのは「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」であり、チームの効果性に影響する最も重要な因子は心理的安全性であるとの結果を得ています。
また、2022年5月に株式会社タバネルが20~34歳の若手社員を対象に行った調査(有効回答数500人)でも、心理的安全性が高いチームほど成長できると感じる若手社員が多く、チーム目標に向かう取り組みが行われ、業績が高いことが報告されています。
職場の心理的安全性に期待される主な効果を、以下に整理します。
1. 生産性が向上する
「これを伝えたらどう思われるだろう……」といった心配をせずにコミュニケーションがとれると、情報共有がスムーズになります。その結果、効率よく業務を進められるようになり、生産性の向上が期待できます。また、問題の早期発見・解決にもつながるでしょう。
2. イノベーションを促進する
心理的安全性が高く、コミュニケーションが活発で意見を出しやすい職場では、新たなアイデアが生まれやすくなります。また、経験や年齢に左右されることなく誰もがチャレンジしやすい雰囲気があるため、イノベーションの創出も促されます。
3. 学習意欲が高まる
わからないことを素直に質問できるため、新たな気付きを得る機会が多く、メンバーの学習意欲が向上します。また、各自の得意分野に関する知識を共有することで、組織全体の学びや成長が促され、学習意欲がさらに高まるという好循環も生まれやすくなります。
4. ストレスが軽減される
心理的安全性が確保された職場では、お互いを信頼し尊重する文化が形成されるため、非難されたり疑われたりすることを恐れる必要がありません。そのため、ストレスや不安を感じにくくなるでしょう。
5. 人材の定着につながる
安心感を持っていきいきと働くことができるため、人材の定着にもつながります。前述したGoogleのプロジェクトアリストテレスでも、心理的安全性の高いチームに所属するメンバーは離職率が低いことが報告されています。
心理的安全性の高い職場の作り方
では、心理的安全性の高い職場はどうすれば作れるのでしょうか。具体的なアプローチを、組織と個人に分けて紹介します。
1. 組織にできる取り組み
職場の心理的安全性に期待される効果を得るためには、中長期的な取り組みによって、組織の文化や風土としてしっかり定着させる必要があります。そこで意識したいのが、次のようなポイントです。
・お互いを尊重し合う文化を醸成する
多様性が尊重され、全員が公平に扱われることで、心理的安全性は醸成されていきます。異なる意見を認め、理解することの重要性が社内に浸透すると、イノベーションも生まれやすくなるでしょう。具体的には、会議で発言の機会を均等に作る、雑談の時間を定期的に設けて相互理解を深める、ブレインストーミングのようにどんな意見も否定しない時間を意識して作るなどの工夫が求められます。
・失敗を共有しやすい環境を整える
実際に失敗した場合だけではなく、ミスしそうになったことも積極的に共有し、解決策や予防策をオープンに話し合える環境では、個人や組織の成長が促されます。一方で、誰かが失敗して叱責されている場面を見ると、失敗した本人のみならず周りのメンバーも相談・報告がしにくくなってしまいます。失敗を含めて何でも話しやすい環境を整えるとともに、管理職側もメンバーの様子を見ながら必要に応じて声をかけるなどして、話しやすい環境を整える必要があります。
・コミュニケーションの機会を増やす
九州大学の山口裕幸教授の論文では、日本の企業を対象とした研究で、メンバー全員による定例的な対話と、リーダーとメンバーの1on1、そしてリーダーを集めて意見交換する交流の機会を設けたチームで心理的安全性が高まったことが報告されています。雑談を含め、多様なレベルでのコミュニケーションの機会を作ることが大切です。
・褒め言葉や感謝の気持ちを可視化する
メンバー間で称賛し合ったり、感謝の気持ちを伝えるといった行動も、心理的安全性の醸成につながります。例えば、チームや組織全体でサンクスカードやインセンティブを贈り合う仕組みを作り、褒め言葉や感謝を見える化するのも良いアイデアです。
2. 個人にできる取り組み
エドモンドソン教授は前述の「TEDxTalks」の中で、心理的安全性を構築するにあたってのメンバー個人に期待される取り組みについて、以下の3点を挙げています。
- 仕事を、達成のための機会ではなく学習のための機会と捉える
- 自分自身の誤りを認める
- 好奇心を活かし、積極的に質問する
現代における仕事の多くは、常に不確実性を伴っています。絶対的な正解はなく、全員が学びの中にあると言えます。相手の誤りを受け入れるだけではなく、学びとして活かすことが大切です。誰もがミスを起こし得るという前提に立ち、「自分が間違っているかもしれない」「重要なことを見逃しているかもしれない」という考えを念頭に置き、周囲の意見に耳を傾けるようにしましょう。
ワークプレイスでの心理的安全性を確保するために
心理的安全性を高めるために必要なアプローチの詳細は、組織の規模や業務の内容などによっても異なるでしょう。どの組織にもフィットする一律の正解はなく、自社のカルチャーや状況に合わせてアレンジする必要があります。どのような方法が良いかを全員で考えることが、心理的安全性構築の最初のステップになるかもしれません。
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