従業員のモチベーション向上につながる、ゲーミフィケーションの活用法
ゲーミフィケーションとは
「ゲーミフィケーション」という言葉を耳にしたことはありますか? ゲーミフィケーションとは、ゲームの仕組みや要素をゲーム以外の分野に応用することを指し、一般社団法人日本ゲーミフィケーション協会は「楽しくてハマってしまうゲーム要素を活用して、能動的に人を行動させる仕組み」と説明しています。
日本での成功事例としては、回転寿司の「くら寿司」が展開する「ビッくらポン!」がよく知られています。食べた寿司皿が5枚たまればゲームに挑戦でき、当たりが出ると景品がもらえるサービスで、皿の回収という行為にゲーム的要素を加えたことで集客・販促効果につながっています。
こうしたマーケティング戦略への活用のほか、学習者の意欲向上に役立つとして、教育分野での応用も広がっています。また、近年では、組織の人材育成における活用例も見られます。経済産業省もその有用性に注目し、ゲーミフィケーションを用いたDX人材育成に関する調査を進めているところです。
どの分野でも共通するのは、ゲーミフィケーションの導入が対象者のモチベーションアップにつながっていることでしょう。企業では、顧客向けの販促やサービスへの活用だけではなく、従業員のやる気を引き出すアプローチなどにも用いられています。 ここでは、ゲーミフィケーションに期待されるメリットや導入時の注意点を踏まえて、企業の人材育成やチーム運営における活用の可能性について考えます。
ゲーミフィケーションに期待されるメリット
ゲーミフィケーションにはモチベーションの向上のほか、主に次のようなメリットが期待されています。
楽しみながら自発的に取り組める
通常の学習や研修、業務にゲームの要素が加わることで、参加者は遊び心を刺激され、楽しみながら取り組めるようになります。例えば研修では、課題にも意欲的に取り組みながら、知識やスキルの習得・定着を図ることができます。
進捗や成果が可視化される
ゲームでは、敵を倒す、アイテムをゲットするなどの課題や報酬が設定され、最終的なゴールを目指します。ゲーミフィケーションでも、取り組みの先にある最終的な目的(目標)と、達成までにクリアすべき課題を設定することで、目標達成までのプロセスをわかりやすく共有できます。これによって、進捗状況や成果の可視化を図ることができ、適切な評価や称賛、フィードバックにつながります。
交流を促せる
一般的なゲームと同じように、参加者同士で競ったり、協力したりといった交流を促す仕組みを作ることもできます。メンバー同士の協力が必要なステップを設けることでチームワークの向上につながり、他部門のメンバーとの交流を促すことで社内コミュニケーションの活性化が図れるなど、目的に合わせた運用が可能です。
達成感を味わえる
ゲームには、達成感につながるさまざまな仕掛けが施されており、それをクリア(解決)することによって、次のステージに挑戦する意欲と自信が持てるようになります。業務にゲーミフィケーションを取り入れた場合も、同じ効果が期待できます。達成感は自己肯定感やさらなる探究心、向上心、成長意欲を引き出すでしょう。また、メンバーの達成を称賛し、喜びを共有することでチームの結束力も高まります。
ゲーミフィケーションの導入を成功させるポイント
では、ゲーミフィケーションはどのように設計すればよいのでしょうか。日本ゲーミフィケーション協会は、ゲーミフィケーションの組み立てに必要な要素として、次の6つをあげています。
- 能動的な参加
- 称賛の演出
- 即時のフィードバック設計
- 独自性の歓迎
- 成長の可視化
- 達成可能な目標設定
称賛やフィードバックの機会を設けることで、成功が認められ、やる気や快感、安心感をもたらし、参加者が意欲的に取り組むことができます。また、自分で攻略法を考えられる環境や、成長プロセスの「見える化」により、達成感や満足度を高めて継続的な参加を促すことも可能です。難易度を自分で選択できるゲームのように、レベルや参加者の特性、目的に合わせて適切に目標を設定することも、導入の成功を左右します。
ゲーミフィケーションを導入する際の注意点
加えて、ゲーミフィケーションの導入時に注意したいのが、以下のようなポイントです。
本来の目的を見失わないようにする
懸命に取り組むあまり、報酬や称賛を得ること自体がメインの目的になってしまうと、最終的な目標の達成が難しくなります。進捗状況をモニタリングする、定期的にフィードバックの機会を設けるなど、本来の目的を見失わないような工夫を取り入れる必要があるでしょう。
公平性を確保する
設計したゲーミフィケーションのシステムが公平で、すべての参加者に等しく成功のチャンスがあることが担保されていなければ、不公平感が生まれます。特定の人や同じチームばかりが報酬を得ているなど、気になる動きがあればシステムの調整を検討しましょう。
過度な競争を避ける
競争意識は成長に欠かせない要素ですが、行き過ぎて参加者間の競争が激化すると、かえってストレスや意欲の低下を引き起こしかねません。参加者からフィードバックを得る機会を設けるなど、改善を図れる仕組みが必要です。
ゲーミフィケーションの導入事例
実際に、企業ではどのようにゲーミフィケーションが活用されているのでしょうか。ここでは、外部のサービスを利用した事例を紹介します。
新人社員研修にゲームアプリを導入
大手食品スーパーマーケットチェーンのベルクは、ネットパイロティングが提供するアプリ「ぴん!とゲームズ」を2023年度の新人社員研修に導入しました。これは、スマートフォン用のゲームを簡単に作れるアプリで、ベルクでは教育インストラクターがゲームを作成しています。
研修用ゲームのイメージ画像
(画像はネットパイロティングのプレスリリースより)
魚の種類を選ぶゲームなど、業務で必要な知識を楽しみながら学ぶことができ、接客で求められる瞬発力や観察力、記憶力を鍛える機能を備えています。また、ゲームのプレイを通じて、仲間同士のコミュニケーションや自主性、一体感が生まれる効果もあったといいます。
コミュニケーションを生み出す自販機の設置
サントリー食品インターナショナルは、2名の社員証を同時にタッチすると1本ずつ飲み物がもらえるサービス「社長のおごり自販機」を提供しています。使用回数や対象となる時間・曜日、同じペアの使用回数制限など、設定をカスタマイズすることも可能です。
社長のおごり自販機
(画像はサントリー食品インターナショナルのウェブサイトより)
同サービスを導入しているハインツ日本では、さまざまなスモールトーク(雑談)が生まれているとのこと。自販機の利用をきっかけに多くの人と話す機会を持ち、お互いを知ることで、新たなアイデアの創出や共有のほか、部門内にとどまらないチームワークの醸成を後押しできると考えています。
ゲーミフィケーションの可能性
ゲーミフィケーションと一口にいっても、その活用法は実にさまざまです。そして、インターネットやスマートフォンの普及に加え、人工知能(AI)やバーチャルリアリティ(VR)の活用により、新たな展開も期待されています。
例えば凸版印刷は、完全オンラインで実施した2022年度の新人社員研修で、新入社員同士の交流促進のために、メタバース上にコミュニケーションプラットフォームを構築しました。さらに、紙製のVRゴーグルのほか、従業員の社内イベントへの参加や健康増進を支援するスマートフォンアプリ「たまると®」をリニューアルし、従来のゲーミフィケーションの要素をさらに発展させてモチベーションアップを図っています。
ゲーミフィケーションによるスキルアップやチームワークの醸成を目的とする研修プログラムやアプリの開発に取り組む企業が増え、今後はさらに選択肢が広がることが予想されます。研修やチームビルディング、部署間の交流などにゲーミフィケーションを上手に取り入れ、自発的かつ効果的な学びやコミュニケーションを促してみてはいかがでしょうか。