企業におけるサステナビリティ。取り組むメリットと事例
企業活動でも重視されるサステナビリティへの取り組み
近年、耳にしない日はないほど急速に浸透してきた「サステナビリティ」という概念。日本で広まるきっかけとなったのは、2015年の国連総会における「SDGs」の採択でした。SDGsとは「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」のことで、世界規模で生じているさまざまな社会課題への危機感の高まりを背景に、その重要性が広く再認識されることとなったのです。
サステナビリティへの取り組みが、企業自身の持続可能性にも直接的に影響を及ぼすという危機意識の高まりとともに、そこで生まれるビジネスチャンスも注目されるようになり、企業活動においても重視されはじめました。2023年には、内閣府令の改正により、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報開示の義務化がスタート。サステナビリティを意識した経営への取り組みは、いまや企業にとって不可欠なものとなっています。
注目される「サステナビリティ経営」とは
サステナビリティを意識し、「環境」「社会」「経済」の3つの観点において持続可能な状態を実現する経営のことを「サステナビリティ経営」といいます。サステナビリティ経営では、自社の短期的な利益のみを追求することなく、3つの観点を尊重しながら環境や社会全体のさまざまな課題に取り組み、あらゆるステークホルダーと共存して長期的に発展し続ける姿勢が求められます。
サステナビリティ経営に取り組むメリット
では、サステナビリティ経営は企業にどのようなメリットをもたらすのでしょうか。代表的なものを紹介します。
企業価値の向上
サステナビリティに関する取り組みは、株主、金融機関、取引先といったステークホルダーとの信頼構築の一助となります。また、企業のサステナビリティへの取り組み姿勢を重視する消費者も少なくなく、エシカル消費などの消費行動にも反映されるようになってきています。さらに、そうした経営姿勢を発信することにより企業価値が高まり、投資家や金融機関からの資金調達にも直接的な影響を及ぼすことができます。
特に、環境・社会・ガバナンスに配慮した企業を投資先として選ぶ「ESG投資」では、サステナビリティへの取り組みレベルや情報開示姿勢によって資金調達額や条件が異なってきます。調達した資金を持続可能性につながる事業に活用することで、さらに企業価値が高まるという好循環も生まれやすくなるでしょう。サステナビリティへの取り組みにより、事業そのものの持続可能性が高まると同時に、将来のリスク低減にもつながります。
従業員エンゲージメントの強化
サステナビリティ経営では、あらゆるステークホルダーとの共存を重視しており、そこには従業員や求職者も含まれます。従業員の声に耳を傾け、働きやすい環境を整える企業の姿勢は従業員エンゲージメントを強化し、離職率の低減につながります。また、SDGsやエシカル消費への関心が高い求職者にポジティブな印象を与え、人材の確保にも有利に働きます。
事業の拡大を促進
サステナビリティ経営を進めるなかで、地域住民や企業との連携が生まれ、新たな取引先やパートナーを獲得できることがあります。また、サステナビリティへの取り組みは、出会いだけではなく視野を広げるきっかけにもなります。その結果、これまでになかったアイデアが生まれたり、ビジネスチャンスが増えたりして、事業の拡大やイノベーションの創出を促進する効果も期待できます。
企業のサステナビリティ取り組み事例
企業のサステナビリティへの取り組みにはさまざまな形があります。ここでは、先駆的な取り組みを行う国内企業3社の事例を紹介します。
環境配慮型の物流サービスを実現
業界最大手の物流事業者であるNIPPON EXPRESSホールディングスは、サステナビリティ経営に力を入れ、環境、社会、経済、ガバナンスの4つの視点で社会課題の解決へ向けた取り組みを行っています。
特に環境面では、他社に先駆けて排気ガス問題への取り組みをスタートし、環境に配慮したグリーンロジスティクス(環境配慮型物流)を推進しています。例えば、CO2排出量の削減効果が高い「モーダルシフト(環境負荷の低い輸送手段への転換)」の推進や、繰り返し使用できる引越し用の資材「えころじこんぽ」の開発・提供、産業廃棄物の不法投棄現場の原状復帰や汚染土壌の処理のための輸送などを行っています。
また、2023年1月には、カーボンニュートラル社会の実現への貢献と地球環境の保全を目指して、CO2排出量削減における中長期目標を設定しました。2030年までに、2013年比でグループ全体のCO2自社排出量の50%削減を目指すという目標を掲げ、取り組みを進めています。
環境・社会・経済の3つの側面から生産地を支援
飲料の製造・販売を主要事業とするキリンホールディングスは、「キリングループ環境ビジョン2050」を制定し、「ポジティブインパクトで、豊かな地球を」をコンセプトに取り組みを進めています。また、日本の中学生・高校生が主役となって世界のさまざまな課題の解決に挑むプロジェクト「キリン・スクール・チャレンジ」を開催するなど、「こころ豊かな地球」を次世代につなげていく活動も行っています。
さらに、生産地やそこで働く人たちとより良いパートナーシップを築き、良質な商品を提供できるように、「キリン スリランカフレンドシッププロジェクト」を実施しています。プロジェクトを通じて、スリランカの紅茶農園が「環境保全」「社会的公正」「経済的競争力」のすべてにおいて持続的に運営できることを保証する、国際的な認証の取得支援を実施しており、農園の子どもたちが通う小学校に図書と本棚を寄贈する活動も続けています。
印刷事業での環境負荷低減を実現
神奈川県横浜市に拠点を構える老舗の印刷会社・大川印刷は、環境負荷低減に特化した取り組みを実施。「原材料の調達から印刷、そしてその印刷物の使用から廃棄・リサイクルまで、全てのバリューチェーンで環境負荷を削減していく印刷」を「環境印刷」と名付け、サステナブルな印刷事業に挑戦しています。
2020年度には石油系有機溶剤を含まないノンVOCインキの使用率99.9%を達成し、バナナペーパーを代表とするFSC®森林認証紙を全体の74.16%で採用。同社の印刷事業で排出される年間の温室効果ガスの全量について、カーボンオフセットを達成したといいます。
こうした事例のほか、事業活動を通じて排出される温室効果ガスの削減や、再生可能エネルギーの使用量の増加、フードロス対策、生産国や生産者に対して適切な条件で取り引きを行うフェアトレードなど、サステナビリティに関して企業が取り入れられる施策は多岐にわたります。また、自社事業であっても、企業単体では効果を上げることが難しい取り組みも多いことから、サプライチェーン全体で連携して施策を実施し、社会的な責任を果たすことも重要です。
サステナビリティ経営を取り巻く課題
サステナビリティ経営への取り組みが重視されるなか、グリーンウォッシュやSDGsウォッシュ、サプライチェーンマネジメントに関する課題が顕在化しています。
グリーンウォッシュとは、企業が「環境にやさしい」というイメージを誇示するために、実際にはそれほど環境負荷が低くない活動や製品を、“緑”や“エコ”といった言葉を用いて提供・開示するなど、うわべだけの行為のことをいいます。SDGsへの取り組みを行っているように見せかける「SDGsウォッシュ」とともに問題視されています。
また、サプライチェーンが適切に管理されていない場合に発生する問題への備えも必要です。例えば、森林破壊や海洋汚染といった環境問題、強制労働や児童労働のような人権侵害など、自社の活動に関連して取引先の側で発生しうるさまざまなリスクについても配慮が求められています。特にグローバルに事業を展開する企業では管理する領域が広範囲にわたるため、サプライチェーン全体で問題意識を共有し、適切にマネジメントできる仕組みを整える必要があるでしょう。
今後、サステナビリティ経営の重要性はさらに高まり、企業活動を行う上で欠かせないものとなることは間違いありません。経営層のみではなく、全社でサステナビリティに対する共通意識を持って取り組みを進める姿勢が強く求められます。