「フリーランスとどんな関係を築くか?」が企業成長の鍵
クラウドソーシングとコロナ禍によるリモートワークの普及に伴い、今後、フリーランスの増加が見込まれています。その背景にあるのは、「新型コロナウイルスの感染拡大を避けるため、社会的にリモートワークの普及が進んでいる」という事実。加えて、コロナショックによる業績低下を避けるため、クラウドソーシングやシェアリングエコノミーなど、リアルなつながりとは別の仕事獲得ルートを用意する動きも加速するでしょう。
ITの急激な進化も背景に、自分の裁量での働き方を選択する人たちが増えています。今後、ますます活躍の幅を広げるフリーランス。そうした現状を踏まえると、フリーランスと協業する立場にある企業は、彼らとどのような関係性を築くべきなのでしょうか。beforeコロナとafterコロナでは、企業とフリーランスの関係性はどう変化するのでしょうか。「組織の生産性を上げるための、フリーランスとの付き合い方」を、企業側の視点から考えてみます。
コロナ禍がフリーランスや会社員に与えた影響とは
多くのフリーランスがフリーランスの継続を望んでいる
内閣官房が2020年2月10日から3月6日にかけて行った統一調査をもとに試算すると、日本国内における2020年のフリーランス人口は、462万人となります。これをさらに細かくみると、本業としてフリーランスという働き方を選んでいる人が214万人、副業としてフリーランスを取り入れている人が248万人。今後は本業・副業問わず、フリーランスの人口が増加していくとみられています。
その背景には、新型コロナウイルスの影響があります。一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会が行った調査「フリーランス白書2020」によれば、フリーランスの約9割が新型コロナウイルス感染拡大により「業務に影響があった」と回答。また、7割以上のフリーランスが「収入が減った」と答えています。
しかし、そうした実態にもかかわらず、約9割のフリーランスがコロナ後も「フリーランス・パラレルキャリアとしての働き方を継続したい」と答えています。収入が減った人の割合は会社員の2倍以上であり、収入の不安定さは感じているものの、「働く時間・場所の自由さ」「自分の技能(知識や経験)を充分に発揮できる」フリーランスならではの働き方に生きがいや、やりがいを感じているという人が多い証拠でしょう。
さらに、会社員でも「今の仕事や働き方の問題を解消する、または満足度を高めるための取り組み」としてフリーランスに転向することを考えている人がいるようです。この背景には、afterコロナの働き方について、「時間・空間の制約からの解放」「企業の内外を自在に移動する働き方の増加」「兼業・副業・複業の一般化」といった考えが影響しているようです。
企業も社員も、より柔軟な働き方を求めている
ヤフーも新しい働き方を追求
2020年7月、ヤフー株式会社は、時間と場所にとらわれない、新しい働き方へ移行したことを発表。リモートワークの回数制限およびフレックスタイム勤務のコアタイムを廃止するとともに、副業先としての受け入れ(ヤフー以外で本業に従事する人の受け入れ)を始めることを明らかにしました。
同社は2013年以後、オフィス以外の好きな場所で働ける「どこでもオフィス」という働き方を提唱し、制限を設けながらリモートワークを実施していましたが、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、2020年2月から、月5回を上限としていたリモートワークの制限を解除。さらに、社会の新常態(ニューノーマル)を見据えた「オープンイノベーションの創出」を目的に、ヤフー以外で本業に従事する方の副業先としての受け入れを開始しました。
働き方改革の推進に伴い、副業を許可する企業が増え、本業をこなしながら副業を始める人が増加しています。そうした中で、ヤフーのような大企業が見せた動きは、今後、多くの企業へ波及していくだろうと思われます。同時に、企業にとってはフリーランスと協業する機会が多くなることが予想され、今後は「企業とフリーランスの良好な関係性の構築」が、企業にとっても事業成長の鍵となるでしょう。
企業はフリーランスとどう付き合うべきか?
良好な関係性を構築するために必要な5要素
それでは、企業はフリーランスとどう付き合うのが望ましいのでしょうか。いくつか注意したいポイントを挙げてみます。
(1)フリーランスに解決を期待する「課題」を明確にする
一般に、会社に帰属する社員は時間や労働力を会社へ提供する存在ですが、それに対して、フリーランスは企業が抱えている特定の課題を解決すべき存在。そのため企業は、フリーランスに解決してほしい課題を明確にし、それにふさわしい人材とパートナーシップを結ぶことが必要です。
(2)業務内容やゴールを明確化し、共有する
フリーランスに解決してほしい課題が明確になったら、その課題解決に必要な業務内容や、最終的に目指すべきゴールを明確化し、企業とフリーランスで共有することが大切。「週3回稼働、1回あたりの稼働時間は8時間」「勤務開始1カ月で、この業務まで終了」など、できるだけ具体的な業務内容やロードマップを共有しておくと良いでしょう。その際、曖昧な口約束ではなく、明確に文章化しておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
(3)適切に報酬を設定する
フリーランスとの契約で、企業が頭を抱えることが多いのが、報酬の設定ではないでしょうか。しかし、報酬が低ければ希望する人材とのマッチングは難しくなるでしょう。相場を考慮し、適正な価格を設定することが、目指す成果を上げるためには必要です。
(4)能力を発揮しやすい環境を作る
フリーランスの勤務場所は、委託する企業の考えや、業務内容によって異なりますが、リモートで業務を遂行する場合も多いはず。そんなとき、企業が持っている情報をフリーランスと適切に共有することが必要です。
クラウド上で情報を共有したり、チャットやメッセンジャーなどを活用し、こまめなコミュニケーションをとったりすることが、フリーランスにとって働きやすい職場作りにつながります。こうした環境作りは、確実に業務の成果へ影響を及ぼすでしょう。
(5)定期的にフィードバックを行う
フリーランスの業務の成果について、企業が定期的にフィードバックを行うことは、フリーランスのモチベーションをアップすることにつながります。そのためには、フリーランスにフィードバックを行う社員に、適切な人材をアサインすることも大切。良好なコミュニケーションの醸成が、業務の成果に影響を与えるからです。
win-winの関係性を築くためには?
もっとも重要なのは「対等な関係性」
よく、フリーランスに業務を発注する企業が犯してしまいがちなミスとして、「フリーランスを単なる下請けとしてみてしまう」ということがあります。「必要な情報を与えない」「一方的なトップダウン形式で業務を指示する」「市場相場に比較して不当に安い賃金で業務を発注する」といったことは、フリーランスを下請け業者として扱っている証拠。それでは、フリーランスも仕事のモチベーションが上がりませんし、業務の成果にも影響が及んでしまいます。
先述したように、フリーランスは企業が抱える課題を解決するために必要な存在であり、いわば、対等なパートナーなのです。そうした姿勢を忘れずに、フリーランスと企業が同じ目線で業務の遂行を考えられる関係を築くことが、両者にとって必要なのです。
報酬の支払い遅延は「下請法」違反に
特によくありがちなのが、報酬の支払いで揉めるケース。企業側の都合でフリーランスへの支払いが遅れるという事例がたびたび見受けられます。
しかし、日本には「下請法(正式には『下請代金支払遅延等防止法』)」という法律があります。これは、親事業者による優越的地位の濫用行為を禁止することで、親事業者と下請け事業者との間の取引を公正にし,下請け事業者の利益を保護するための法律で、資本金規模と取引内容が当てはまれば、フリーランスも対象となります。親事業者(クライアント)は下請け事業者(フリーランスや個人事業者)に委託業務を発注したのち、下請け事業者が期日通りに納品したにも関わらず、親事業者の一方的な都合によって、報酬の支払いを遅らせたり、減額させたりなど、不利な扱いをすることがないようにするための法律のこと。業務発注の公正化を図り、フリーランスや個人事業主の利益を保護するため、独占禁止法を補完する特別法として制定されています。こうした法律もあるため、企業がフリーランスに業務を発注する際には要注意。仕事を発注してから報酬を支払うまでが一連の業務と考え、常に対等な立場を維持することが必要です。
参考:一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書 2020」
(ライター:鈴木 博子)