
「女性のヘルスリテラシー向上」をミッションとし、
-----ご経歴と、ジョコネ。立ち上げのきっかけを教えてください。
北:私は元々、医療関係の会社員でした。お客様は全国各地の病院なので、週の半分ぐらいは出張で家にいない、という生活を送っていたんです。心臓外科の担当で、かなり男性が多い職場でしたから、女性であること自体をハンデに感じて……生理痛がひどくても、鎮痛剤を飲みつつ生理用品をカバンに詰めて海外出張へ行く、なんてこともやっていましたね。
そんな私も、30代前半で子宮内膜症の手術を受けたことをきっかけに、女性ならではの健康に興味を持ちました。病気を経験したことから今後のキャリアを見直し、女性のヘルスリテラシーの研究をするために大学院に入りました。
ヘルスリテラシーは「健康を決める力」といわれています。これを研究していくと、女性として生きてきたはずの自分が、女性の健康や社会の中で置かれている状況をまったく知らずにいたことに気付きました。
また、ヘルスリテラシーを高めるには、個人が健康・医療の情報を理解して取り入れていくことも大事なのですが、周りに行動しやすい環境が整っていることも重要です。今、女性が健康に不安を感じた時に、寄り添ってくれる相談先にすぐたどり着けるかというと、そうではない。そこで、そういうサービスや環境を作りたいと考えてジョコネ。という会社を作りました。
-----ジョコネ。の事業内容について、教えていただけますか。
北:ジョコネ。は「女性のヘルスリテラシー向上」をミッションに掲げています。最初の事業として取り組んだのが、オンラインでの「骨盤底筋トレーニング(底トレ)」の提供です。
「骨盤底筋」自体、私も女性のヘルスリテラシーを研究するまで知りませんでした。ただ、勉強すればするほど大事なトレーニングだと分かりました。
というのも、尿もれなどの骨盤底筋のトラブルは20歳以上の女性の2人に1人が経験していると言われていますが、そのトラブルはトレーニングすることで防げるのです。
私自身も産後に、現在ジョコネ。で底トレトレーナーとして活動している岡橋氏に家まで来てもらって、トレーニングを受けました。彼女とは研究がきっかけで元々知り合いだったのですが、「じゃあ、みんなはどうやってトレーナーを探しているのかな」と思ってネットで検索しても、なかなか同じようなサービスが見つからなかったんです。
女性であれば誰しも受けてほしいトレーニングなのに、受けられる環境が整っていないことを知って、事業として取り組むことにしました。
また、女性に自身の健康に関心を持ってもらう、知識をつけてもらう意味で「ヘルスリテラシーを高める講座」をスタートさせる準備をしています。
もちろん、女性ホルモンの話や、更年期の話といった知識的なこともお伝えするんですが……実は、一番大事なのは「自分を大事にする」という意識だと感じています。
女性は家事、子育て、ご両親の介護、仕事とさまざまな役目を負っていて、自分のための時間を取れてない方が多いんです。でも「しょうがない」と諦めるのではなく、「本当はもっと自分を大事にしていいんだよ」ということをお伝えしたくて。
健康は人生のベースになるものだと思うので、一方的に健康や医療の情報をお伝えするというよりは、ご自身の健康を維持した上で「人生をかけて何をやっていきたいのか」まで考える、そういう要素も含めたものになると思います。知識を得ても、行動に繋がらないと意味がありませんから。
-----かつてのご自身だけでなく、多くの女性が「自分を大事にできていない」と感じていらっしゃるのですね。
北:そうですね。例えば、更年期の女性を対象にしたオンラインセミナーで、「仕事の昇進と更年期と介護のタイミングが重なったら?」という話題が出た時に、チャットがものすごく白熱したんです。
「熟考したくても、すぐに『昇進したいです』と返事をしないとその話はなくなってしまうのではないかと悩む」とか……こういった話題って、おそらく他の場ではあまり話せないんですね。それで「みんな悩んでいるんだな」と実感しました。
ヘルスリテラシーを高める講座の中にも、「家事も仕事も子育ても全部完璧にやらないと」と背負い込んでいた女性がいらして。講座を通じて「そんなにできなくてもいいや」と思えるようになったことがすごく良かったとおっしゃる方もいたし、「自分を大事にしてこなかったので……」と、泣いてしまう方もいて、もらい泣きしそうになることもありました。私も、ジョコネ。でそういう女性に寄り添うサービスを提供していきたいとあらためて実感した経験でした。
-----女性自身の知識や意識だけでなく、周りの環境が整っていることも重要だとおっしゃっていましたが、この点で取り組んでいることはありますか。
北:企業で、社員の方を対象としたセミナーをさせていただいています。「女性の健康」が健康経営の項目にも入ってきて、関心が高まっているのか、引き合いも増えてきました。
ただ、やはり難しいのは男性管理職の方々にどういったお話をするかですね。男性管理職の方々も「どうしていいか分からない」、「下手に発言するとセクハラになるのでは」という心理的なバリアがあるようですし、女性側も「男性管理職よりは女性管理職に相談したい」と考えている方が多い。とはいえ、どの会社でも求められるポジションすべてに女性管理職を置くというわけにはいかないですから。
どうお伝えすると男性管理職の方にもしっかり伝わって、部下の女性たちの環境改善に繋げられるかは、これから皆さんとも一緒に考えていきたいです。
-----ジョコネ。が入居されている SENQ霞が関の印象はいかがですか。
北:元々、霞が関の落ち着いた雰囲気が気に入って入居しました。一般的なシェアオフィス自体に賑やかなイメージがあるのか、外からいらっしゃるお客様にも「落ち着いていていいところだね」と言っていただいています。
設備も揃っていますし、席の種類が多いのもありがたいです。電話やオンラインで話す時はソファ席を使ったり、集中したい時は静かなスペースの端で作業したり。最近作ってくださったオンライン会議用の個別ブースも快適に使っています。
人的環境もいいと思います。レセプショニストさんも優しい方たちですし、入居者同士で交流できるイベントがあったり、メンターさんがいらしたり。今日もメンターさん主催のプロフィール写真撮影会に参加しました。
-----メンターさんや入居者さんとの交流もされているのですね。
北:はい。霞が関にはベンチャーキャピタルのメンターさんがいらして、月に1回相談会があるんです。そこで、今考えているビジネスについて相談をさせていただきました。
初めての起業だったので、分からないことばかりで。「まず投資を受けるべきビジネスモデル」と、「少しずつ事業を実践した上で、銀行に融資を受けるべきビジネスモデル」の違いを教えていただきました。投資を受けるべきビジネスモデルだった場合に、どのくらいのタイミングで投資家さんへ話を持っていくべきか、そういうイメージが持てるようになりましたね。
-----ご自身もオンラインイベント「All SENQ Meet up #4」に登壇されましたが、いかがでしたか。
北:起業したばかりですと、そういう機会をいただけること自体が少ないのでありがたかったですね。他の入居者さんにコメントもいただけて、気付きがあったりして。もちろん、他の入居者さんがどんな事業をやっているかも聞けますし、刺激になりました。
-----今後の展望について、また、そのためにSENQに期待していることについて聞かせてください。
北:私たちの目指すところは「女性に必要な情報とサービスを届ける」ことなので、骨盤底筋トレーニングに限らず、今女性に届いていないサービスが届くようにしていきたいと思っています。それは女性をやたらにひいきする、持ち上げるということではなくて、「女性が生きやすい社会は、多様性が認められた、女性だけでなくいろいろな人が生きやすい社会だ」と考えるからです。それを推し進めるためにも、SENQでは今後も、多くの入居者さんやメンターさんと出会う機会をいただけるとありがたいですね。
お話を聞くにも、何か頼みごとをするにも「SENQの入居者」という繋がりだけで、信頼関係の土台になると思うんですよ。始めたばかりの小さい会社となると、その土台すらほとんどない状態でやっているので、そこをサポートしてもらえる環境があるのは、すごくありがたいです。
SENQにいらっしゃる方々も「何か新しいことをしたい」とか、「何かあったら協力し合いたい」というマインドの方が多いし、そういう方々が集まる場所だと感じます。
------ SENQでも女性のヘルスリテラシーについて、協力し合いながら新しい取り組みができるのを楽しみにしております。本日はありがとうございました。
(ライター:丸田カヨコ)