
事例を通して知る大企業と先端ベンチャーの協業のポイント(前編)
2017年3月6日@SENQ京橋
(後編は以下リンクから)
https://senq-web.jp/topics/event/1434
SENQ主催イベントも、今回で通算3回目。第1回目は食の先端ベンチャー5社によるピッチイベント、第2回目は地方行政の取り組みや地域ビジネス等に関する講演と、これまでは100人近い規模のイベントを開催してきましたが、第3回からは少しラフな形で、登壇者と来場者との距離が近いトークセッション型のイベントを開催しました。
大企業とベンチャーの協業のポイントについて、2つの協業事例を元に4社に語って頂きました。
【第一部】トリドール × akippa
株式会社トリドールホールディングスが展開する丸亀製麺の店舗駐車場に関する
駐車場シェアリングサービスakippaとの協業について
登壇者ご紹介

株式会社トリドールホールディングス
経営企画室室長 小林寛之氏
修士課程を修了後、大手監査法人、国内証券会社系のプライベート・エクイティ・ファンドを経て、2014年に株式会社トリドールへ入社。経営企画室室長として、事業計画の策定、資本政策の立案、IR(投資家向け広報)、海外事業のサポート、企業買収など幅広い業務に従事。
2015年4月から外食業界初のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)である、TDインベストメント株式会社の代表取締役社長を兼任。

株式会社akippa
代表取締役社長 金谷元気氏
1984年生まれ。大阪大学 経済学研究科 非常勤講師。高校卒業後より4年間、Jリーガーを目指し関西リーグなどでプレー。引退後に上場企業にて2年間営業を経験し、2009年2月に24歳で1人暮らしをしていたワンルームの部屋で会社設立。契約されていない月極駐車場や、個人宅の駐車場を15分単位で貸し借りできる駐車場シェアサービス「akippa」を運営。DeNA、グロービス、トリドール、朝日放送、三菱UFJキャピタルなどから総額12億円以上の資金を調達。2016年12月にはトヨタ自動車と提携し出資も実現した。
ファシリテーター

日本土地建物株式会社 都市開発事業部
SENQ京橋マネージャー 野口 美隆
都市計画コンサルタントを経て、2006年日本土地建物株式会社へ入社。開発、アセットマネジメント部署にて、民間活力導入型公共施設開発事業(民活PPP事業)、賃貸事業に関する計画指標と策定フローの再構築、スモールサイズマンションのデザインリノベーション、京橋二丁目西地区第一種市街地再開発事業を担当。2016年よりオープンイノベーションオフィスSENQシリーズ立ち上げ開始。11月より「Food Innovation」をテーマとしたSENQ京橋のマネージャーに就任。
トークセッション概要
既存課題
ロードサイド店舗の丸亀製麵に関し、店舗内のお客様稼働率に比べて駐車場稼働率が高い状況。店内が空いているにも関わらず、お客様が駐車できず入店できない状況にあった。
解決方法
akippaの駐車場シェアリングサービスを導入。近隣駐車場と提携して、従業員向け通勤車両を敷地外に誘導。駐車場を適正に空けることで集客増につなげることに成功。
トリドール小林氏(以下TORIDOLL)
トリドールホールディングスは、丸亀製麺始め、天ぷら専門店や郊外型カフェなど、30の国と地域で1000店舗以上の飲食店を運営しております。
加えて、2015年から外食初のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であるTDインベストメントを設立しております。
CVCとしては、事業シナジーのある企業で、企業規模は問わず、業務提携できる先に投資しており、飲食専門のクラウドファンディングや、新規就農者向けのサービス等に投資しています。
akippa金谷氏(以下akippa)
akippaは、契約されていない月極駐車場や空いている個人宅の駐車場などを、ネットを経由して15分単位で予約できるというサービスです。
全国の自動車台数は7600万台ほどあるのに対し、コインパーキングは500万台しかない。
そのため東京都で毎秒平均6万台、大阪府で毎秒平均3万台の路上駐車が発生しています。
一方、月極や個人宅の駐車場などは3000万台くらいが遊休の状態です。そこを、スマートフォンを介してつなぐサービスです。
akippaの特徴は3つあります。
1つ目はネット予約です。いますぐ使いたい、という時でも空いてさえいれば全ての駐車場が予約できます。
2つ目はリーズナブルであることです。六本木であっても15分100円で利用できます。例えば比較サイトで六本木での一日の最大駐車料金を検索しますと、一番安いakippaは一番高い駐車場の1/10です。akippaはスマートフォンで決済を行えるので、コインパーキングには必要な精算機等の設備が不要で、投資を抑えられるからです。
3つ目の特徴はスマートである、ということです。スマートフォンで予約も決済も完了するので、簡単に利用できます。
収益モデルは利用者から駐車場料金を徴収し、オーナーに60%渡します。
駐車場を貸し出してくださる方々は法人が9割、個人が1割です。電鉄系の企業さんが線路下を活用したり、マンションの駐車場など、特に単身向けなどは住民用の駐車場の付置義務がありながら住民のニーズが少なく、駐車場が空いているケースでakippaを活用頂いている状況です。ビルの駐車場活用例も増えてきております。
利用者さまは、まだ個人が多いですが、法人も増えておりまして、物流業界の駐車問題を解決する手法としても有効です。例えばセブンイレブンさんには、駐車場がない店舗の荷下ろし用として提案した例もあります。
最近は競合も増えておりますが、akippaの社会的価値としては、akippaは都市部の駐車場不足や、コンサートやスポーツ観戦時に駐車場が足りない、といった課題に対して、スマートフォンを通じた新しい手法で解決手段を提供していこうとするものです。
その実現のために各社から資金調達をさせて頂いておりまして、そのうちの1社がトリドールさんです。また2016年の12月からトヨタさんと提携し、ファンドから出資を受けております。
ファシリテーター(以下SENQ)
協業内容について教えて頂けますか?
akippa:2015年7月にトーマツベンチャーサポートさんからトリドールさんをご紹介いただきました。
店舗駐車場が満車でありながら、一方で店内には空席がある状況だと伺いました。
TORIDOLL:そうです。各店舗2-30台の駐車場が取れる用地を確保するのですが、どうしてもピーク時には店舗駐車場が満車になり、近隣では丸亀渋滞と呼ばれる程で、お客さんが店舗にすら入れない状況となっておりました。
akippa:いろいろお話を伺いますとロードサイドのお店なので従業員の方も車で来てしまうとのことでしたので、まずはakippaが周辺の開拓をさせて頂きまして、誘導先のスペースを確保しました。偶然ですが、導入に至る経緯がガイアの夜明けに取り上げられて、話題になりました。
SENQ:導入後に成果が出るまでどのくらい期間がかかりましたか?また協業に関してはどのような効果がありましたか?
TORIDOLL:連携する駐車場の確保まで数日ありましたが、導入直後から効果が出て、来客数が1日100人程度増加しました。金額にして一人単価500円程度なので、一店舗当たり一日5万円くらいの売上増につながりました。
akippa:トリドールさんとの取り組みが日経新聞に取り上げられ、先ほどお話ししたガイアの夜明けに取り上げられて、法人さまからの問い合わせが増え、「各法人さまの課題をakippaが解決する」ビジネスモデルが増えていきました。
また協業後、トリドールさんが飲食店向けファンドを立ち上げられたとのお話を聞き、ちょうど当社が増資を求めていたタイミングで、お食事した折にお願いしましたら翌日にOKが出て。そうしたご縁にもつながりました。
SENQ:期間一日でご融資決定、トリドールさんの判断が早くて驚きます。事業の評価については如何ですか?
TORIDOLL:お客様の集中する時間帯、繁忙期などに、駐車場をお客様のために駐車場を空けられる。月極で借りても費用が無駄になるがakippaさんにお願いすることで、一日まるまる借りるということではなくて、時間帯で使った分だけ借りられるので費用も安く抑えられるというメリットがありました。
またCVCとしてもトリドールの新事業開発としての側面もあるので、本業とのシナジーを重要視して投資先を選定します。駐車場市場3.5兆円の中でどれだけスケールするだろうかという成長性、投資の規模感、新規参入に対する競争優位性などを鑑みてakippaさんを投資先として選定しました。
駐車場の事業は、営業等ある程度泥臭さが求められる。仮に大手IT企業が後発で参入してきても、その泥臭い部分までそうした大手ITがやれるかは疑問があると感じています。
SENQ:ベンチャーの強みは行動力ですね。シェアリングエコノミーにおいては、空間だけでなく時間的余白もシェア対象となる点がポイントだと思うのですが、まさに今回の協業事例はベンチャー企業のアイデアが大企業のニーズに合致した例かと思います。それと先ほどのお話にあったトリドールさんの判断スピードもキーポイントですね。
【会場からの質問】
・今後のやりたいこと、狙いについて教えてください。
→TORIDOLL:トリドールCVCとしては、本業の課題点を解決するという観点で投資先を選定したい。
今後の日本のマーケットを長期的に見た場合の労働力の低下をカバーできるような、IoTあるいはネットワーク技術等による生産性向上に寄与するようなベンチャーに注目しています。
また、2016年に丸亀製麺のアプリをリニューアルしたことで、カスタマーの購買ニーズを把握できるようになった、今後はデジタルマーケティング分野のベンチャーに注目している。
→akippa:akippaを通じたマーケティングが実施できるので、今後はそうした事業も強化していきたい。先日もセレッソ対ジュビロのデイゲームのPRを、スタジアム周辺のakippa利用者数百人にPRさせて頂きました。
・競合に対する優位性、ストロングポイントについて教えてください。
→akippa:当社の社員は全員が強い思いをもっています。シェアリングエコノミーもAirbnbもuberといった単語も全然知らない社員たちが、「駐車場が満車である」、逆に「空いていて辛い」、そうしたオーナーさんたちの課題を解決しようと、強い気持ちをもって転職してきます。
先ほど泥臭さという話があったが、まさに泥臭いところをやれるのが当社の強み。
後発が参入してきたとて負けるわけにはいかない。そういう強い意思でやっています。
【第一部 キーポイントまとめ】
・大企業側のリソースの分析、課題と要因の正確な把握(課題解決型ビジネスモデル)
・出会いを創出した仲介者の存在
・大企業サイドの判断スピードの速さ
・ベンチャーのアイデア、導入に至るまでの実行力(泥臭さ)
後編へ続く