中央官庁街に隣接し、官民連携をテーマに掲げるSENQ霞が関と、内閣府・国家戦略特別区域会議の下に設置されたTECC(東京圏雇用労働相談センター)が去る12月9日にオンラインイベント「SENQ Social Edge Time」を共催しました。テーマは「変わる日本のワークスタイル」。全4回で構成されているランチセミナー第2回は、講師にTECC相談員で社会保険労務士/産業カウンセラーの宮田享子氏を迎え、「ワーケーション」の労務管理をテーマにレクチャーが行われました。
講師: TECC相談員 社会保険労務士/産業カウンセラー 宮田 享子 様
進行: TECC 事務局 前 様
1.仕事のスイッチON/OFF
宮田様は社会保険労務士法人などのご経験を経て2010年に独立、「みやた社労士事務所」を開業。企業の良好な職場環境作りをサポートする傍ら、東京都の「女性の活躍推進加速化事業」に携わり、ハラスメント防止などの企業研修講師、TECC相談員としても活躍されています。
第2回となる今回も、まずは一般社団法人Workation Networkによる見解を引用する形で「ワーケーション」の解説から行われました。
こちらの見解は、スケジュールや場所など「休み方」にフォーカスした第1回セミナーの解説に対して、休暇中の過ごし方、期待できるメリットなどが具体的に示されています。
続いては最初のテーマである「仕事のスイッチON/OFF」について、睡眠を例に解説していきます。仕事においても、完全なOFFモードが質の高い休養をもたらすのです。
同様に、ワーケーションにおいても「日常と非日常(WorkとVacation)」の切り替えが重要なポイントに。このうち「日常(Work)」の部分は、本人だけでなく企業側からの管理も必要だと示されます。
2.新しい働き方の労働時間管理
「『新しい働き方』の労働時間管理」を解説するにあたり、まず示されたのは「労働時間」のガイドラインです。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者
の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン」より引用
“指揮命令下”と聞くと、文書や口頭での指示を連想しがちですが、暗黙のうちに考えや意志を示す「黙示」もまた、指揮命令にあたることがわかります。
続いては、ワーケーションをスムーズに実施するための大まかなフローが示されます。
ここでのポイントは、制度の整備より先に「実施するか否か」を判断する方針決定の時点で、その理由や根拠をはっきりさせておくこと。これが確かでなければ、従業員に不公平感をもたらしてしまいます。
また、実施にあたってのルール作りや、一部部署でのテスト運用を含めた導入前の研修なども、実施後のスムーズな運用には欠かせません。
ここで、労働時間管理に関してのFAQがいくつか取り上げられます。
経営者からの質問で多いというのが、時間外・休日労働に関するもの。例えば「目の届かないリモート環境で従業員に時間外労働・休日労働をされてしまったら……」という懸念があるわけです。これを避けるためには事前許可制や事後報告制を設けることがポイントになります。
この許可や報告がない上で、使用者からの働きかけや、客観的に働いていたと推測できる状況がなければ、「労働時間ではない」と判断されるのです。つまり従業員が根拠なく一方的に「働いた」と主張しても、認められないことがわかります。
他にも、休憩や中抜け時間の扱い方、外回りの多い職種などに多い「事業場外みなし労働制度」をワーケーションに適用できるかどうか、企業側が長時間労働を抑制するための対策法など、ワーケーションをスムーズに実施するためのさまざまなポイントがFAQ形式で紹介されました。
3.都心ワーカーのメンタルヘルス
最後のテーマは、都心ワーカーのメンタルヘルスを健やかに保つためのワーケーションについて。特有のストレス源を多く抱える都心ワーカーの様子や、ワーケーションで日ごろの環境を離れ、リラックスできる場で働くことのメリットを、講師自身の温泉地でのワーケーションを例に紹介していきます。
国内のワーク・エンゲイジメント(仕事に対してのポジティブで充実した心理状態)研究の第一人者である、慶應義塾大学 島津教授監修のもと、コンサルティングファームや旅行関連の企業によって行われた実証実験も紹介されました。ワーケーションが生産性や心身の健康にポジティブな効果をもたらすことは、すでにデータでも示されているのです。
ワーケーションの効果は明確である一方、労務管理をどのように行っていくかは、労働としての線引きや、ひいては生産性にも関わる重要なポイントだということがわかった今回のレクチャー。最大限の効果を引き出すためには、方針決定やルール作りといった準備にもしっかりと手をかけたいところです。
(ライター:丸田カヨコ)