INTERVIEW
2020.03.16

「官民の情熱の交差点」で最強の掛け算を――官民の翻訳者・株式会社PublinkがSENQ霞が関で目指すもの

ソーシャルイノベーション創出の促進を目指して、SENQを運営する日本土地建物株式会社とパートナーシップ協定を締結した株式会社Publink。代表取締役の栫井 誠一郎(かこい せいいちろう)さんは、まさに官民連携のトップランナーとして日々活躍されています。ここでは、栫井さんのご経歴やSENQでの活動、そしてこれからSENQで展開したいことについて伺いました。

 
-----ご経歴と、SENQ霞が関入居のきっかけを教えてください。

DSC_0002株式会社Publink 代表取締役 栫井 誠一郎さん

栫井:大学では理系の学部にいたのですが、そのまま大学院へ進学するよりも、一度社会に出て世の中を広く見たいと思い、新卒で経済産業省へ入省しました。一般的に官僚の異動は2年毎なのですが、「仕事をする中でできるだけ多くの物事を見て、人生の目標を明確にしよう」という考えがあったので、毎年異動希望を出して、6年半の在籍期間中に研究開発の予算分配や、内閣官房での防災対策など6つほどの部署を経験しました。

そのうち「これから日本で生まれてる子供たちが、日本に生まれて良かった、と思える国にしていきたい」「あらゆる社会課題は1つの省庁だけでは完結しない。それなのに、省庁を越えて協力しようとすると縦割りの組織構造が障壁になって、乗り越えるコストが高い。もっと壁を低くして連携が進んでいくように、構造を変えていかないと日本はまずい」と感じるようになり、この「構造を変えることで社会に貢献する」ことが人生の軸、目標として定まってきたのです。そこで、28歳で経産省を退職し、複数の会社を起業して民間で経験を積み、35歳から官と民両方の経験をもとにした活動をする……という人生設計をし、これまで進めてきました。

前職を退職した2018年当時は、「官民連携のプラットフォームビジネスを起こす」というコンセプトがあるだけの状態でした。そこで、どんな事業モデルがいいか、どうすれば収益化とグロースに繋がるかを練るために、関連する人と意見交換をする “壁打ち”をひたすらやっていくことにしました。2018年だけで約1600人と名刺交換して、対話を通じて共感してくれる人の輪がどんどん広がりました。そんな中、参加していた官民連携コミュニティ・FCAJで日本土地建物の方にお会いして。「SENQ霞が関を官民連携の場所にしたい」という話から親しくなりました。やがて弊社の事業内容も具体化してきて、ここで自分のやりたいことをすべて注ぎ込むと、SENQ霞が関を盛り上げることにもなる、ということで20187月に入居したのです。

-----人生の目標、それも「社会に貢献する」ことを20代で決意するのはなかなかできないことですね。

栫井:祖父と父の影響が大きいです。祖父は戦後に起業し、鹿児島県下に家電量販店チェーン「鹿児島ベスト電器」を経営していました。30年も前から「立場の上下に関わらず、お互いに『さん』付けで呼びなさい」という社内ルールを設けたりする、先進的な考えの持ち主でした。

その祖父の組織論が「現場を回すメンバーはひたすら仕事をする勤勉な人がいい、中堅のメンバーは自分で次々仕事を作り出せる賢い人がいい。ただ、賢いメンバー同士はぶつかりやすいので、組織のトップに求められるのは、この多様性のあるメンバーを包み込む環境作りと、器の広さだ」というもので。確かに、祖父は自社でそういう環境を作って、従業員からも尊敬されているのがわかる人でした。その影響で私も「こうするべきだ、俺についてこい!」と強いるのではなく「こういうのいいよね!良かったら一緒に作っていこう!」と、共感の輪を広げる形でコミュニティや事業を作るようになりました。そんな性格もあって、飲み会の幹事もよく引き受けてしまい、忘年会・新年会シーズンは大変でした ()

父は寡黙な人ですが、私が子どもの頃にふと「自分が死ぬ時は、周りの人に感謝されながら死にたい」と口にしたことが自分にも響いて。確かに、自分だけが満足して人生を終わるより、周りの人にも感謝されながら終われたら幸せだなと。

学生時代には祖父の組織論と、感謝されたいという思いが重なる部分を追いかけたいと思うようになっていたのですが、どうしたら感謝されるようになるのかがわからなかった。それを経産省で見つけたというか「この社会構造や仕組みを変えて、10年後20年後いい社会になれば、恩恵を受けて、感謝してくれる人はすごく多いだろうな」というのがあって、徐々に具体化していきました。

-----そうして起業された株式会社Publinkですが、具体的な事業内容について教えてください。

DSC_0056_2

栫井:前提として、社会にイノベーションを起こすためには、省庁間でのコラボレーションに加えて、官と民もコラボするべきだと考えているんです。例えば待機児童問題は10年以上も課題として残り続けていますよね。ニーズがあるのに民間が参入しないということは、制度設計がハードルになっている可能性が高い。つまり、民間の経験者が制度設計側に入って、民間が参入しやすい設計をすれば解決するはず。それが実現しないのは正直、官民が断絶していることの表れだと思っています。

社会活動に向き合っている公務員やNPOのメンバーは金銭利益よりも社会貢献を優先し、一方で事業活動に向き合っている民間の人は理想論よりも金銭利益を優先する。互いがタッグを組めば、社会にメリットがあるから共感を呼んで、事業にも還元されて、より広がっていくのですが、今はまだ互いを理解できていない。

そこで官民両方を経験して、仕事のやり方も文化も価値観も全然違うところを“翻訳”できる人――当社では「パブリンガル」と呼んでいます――が間に入ってコーディネートしながら、官民の掛け算でイケてる社会へ変えていこうと。

例えば官民が交わる場所をWebやリアルで作る、情報を共有する、そういうものをどんどん作っていく事業を全方位からやろうということで、コンサルティング事業とイベント事業とコミュニティ事業、そしてメディア事業を手掛けています。

“翻訳”の例としてわかりやすいのは、メディア事業でしょうか。当社のWebサイトで「就職氷河期対策」を扱っているのですが、省庁のプレスリリースは淡々としていて、官僚の持っている「こういう価値を生み出せるように、社会をこう変えたい」という思いは伝わりにくい。大手メディアもこういった話題には批判一色で、やはり官僚の思いは伝えてもらえない。そこで、省庁の氷河期対策担当者に個別にインタビューして、思いを全開で語ってもらい、記事を作りました。

政策に対して、「何を目指して、どうやっているのか」を踏まえずただ批判するだけでは何も生まれない。「これを目指しているのなら、こう修正したら目指すところに近づく」といった建設的な対話をしていくには、まず政策の本音を伝えて、目線を合わせることが大事だと思うんです。

-----すでに官民連携で大きなイベントなども手掛けているそうですね。

栫井:201912月にイベント「FUTOMOMOすっきりウォーク」の事務局を弊社で務めたのですが、それは知り合いの経産省官僚の悩み相談がきっかけでした。SENQ霞が関は経産省の二軒隣なので、ランチのついでくらいの感じで寄ってくれて。それが、スポーツ庁長官の鈴木大地さんを呼んで、大手企業のスポンサーを10社ぐらい集めて、西新宿でイベントをやるところまで発展しました。

スポーツ庁は「パブコン~もしもあなたがスポーツ庁長官だったら~」という、誰でも自由に政策を提案できるコンテストを実施しているのですが、官僚でも応募できるというので、経産省の知り合いが応募したところ「スポーツ庁長官賞」を取って、1日長官チケット(スポーツ庁長官と行事や大会視察に同行)の権利を獲得したんです。

彼女は健康経営の政策などを手掛けていたこともあって、受賞したのは「ナッジ(動機付けの仕組み)により、働く女性が日常生活で自然に運動できる」政策でした。都心で働いている女性は、美容に対する意識は高いけれども、スポーツをする時間がなかなか取れない。一方、メーカーの研究で「いつもより少し大股に歩くよう心がけるだけで、太ももがすっきりする」という結果が出ている。そこで、少し大股で歩かないと踏めないフットマークを通勤路やオフィスの地面や床につけて、ゲーム感覚で踏んでいくだけで、自然と太ももがすっきりするし、運動にもなる……という取り組みを提案したのです。

ただ、長官が呼べるとはいえ、予算は1円もないと。そこで「企業に場所を提供してもらったり、協賛金を集めたりしてもいいのであれば、それをもとにあなたたちが活躍するコンテンツを設計できるよ」と私も提案して、西新宿のイルミネーションの中で、鈴木大地さんや、競歩のオリンピック選手の方と一緒に、太ももがすっきりするウォーキングをしよう!というイベントが実現しました。

イノベーションは偶発的な出会いから生まれることが多いのですが、官庁と近いSENQ霞が関では偶発的な出会いが特に発生しやすい。それをただのフラッシュアイデアに終わらせずに実体化させるまでやり切ったら、ちゃんと社会に貢献できるんです。ちなみにこのイベントが盛り上がったことで、経産省の彼女の上司、その上司、そのまた上司ぐらいまでが知っているプロジェクトになって、経産省の資料にも入れていこう、とか話が広がるようになってきたらしく。ボトムアップで成功した事例ともいえますね。

-----アイデアやチャンスを逃さず、やり切る姿勢は素晴らしいですね。ちなみに、SENQの入居者ともコラボされたことがあるとか。

栫井:まさにこの「FUTOMOMOすっきりウォーク」でコラボが実現しましたね。SENQ霞が関に入居しているヘルスビット株式会社は、3分程の簡易な計測でプロポーションと筋肉をスコア化して身体年齢を算出する「パーソナルスコア」というソリューションを提供しているのですが、健康経営に関する事業だということで「イベントにブースを出してください」とお願いしまして。西新宿のイルミネーションの中で、100人ほどのパーソナルスコアを計測してもらいました。

あとは、日本土地建物さんと昨年10月から共同開催している、官×民のオープンイノベーションの実証実験、『官民共創サロン』の案内をSENQ全拠点で行ったところ、SENQ京橋やSENQ六本木から色々なベンチャー企業の方が参加してくれて、しかも気に入ってくれて、リピート参加してくれました。

-----SENQ霞が関を会場とする官民連携イベントも盛んに主催されていますね。

DSC_0012-1

栫井:まず入居後、経産省を巻き込んで「経済産業省×人材」をテーマにイベントを実施しました。経産省には「日本の雇用や人材に関して、もっと新しい社会になるべきだ」と先進的な政策を世の中に発信する部署もあれば、「経産省の中の組織をどう新しくするか」に取り組む部署もあって、人材という切り口から見ても、先進的な考えとアナログな現実が入り交じっているんですよね。そこで、日本の社会の人材政策を担当している官僚と、経産省の中の組織を担当している官僚、それぞれから目指すものと課題や悩みについてプレゼンしてもらい、それに対して民間企業の人事マネージャーといったプロの人を集めて、グループワーク形式で官僚の悩み相談にのるという。初めてのイベントでしたが、プレスリリースも大手メディアに10社ほどに転載されて、話題になりました。

先程もお話した官民共創サロンは、2週間に一度、早朝に、例えば官僚2人、民間3人が1つのテーブルで意見交換、それが45テーブル並行するような活動をしました。「会いに行ける官僚」じゃないですけれど、同じ人間なんだというのが感覚的にわかって、すごく共鳴するんですよね。これまで国とやって何かいいことあるの?と思っていたビジネスリーダーが「そういう政策進めているなら、この部分はうちの会社と一緒に出来るじゃん!」と、話してみるとシナジーがある。官にとっても、民との出会いがプラスになるように、民のメンバーは弊社で厳選していて、日々「霞が関まわり」をしている人達とはまた違う第一線の人達との交流や共鳴が生まれる。SENQ霞が関という官と民の間の場が媒介することで距離が近くなりますよね。

SENQが拠点ごとにテーマを持っていることは、我々にとってはありがたいことです。他で聞いたことがないし、すごく際立っていると思います。霞が関の場合、「ここは官民連携を促すオフィス」というテーマがあるからこそ、弊社も事業展開しやすいし、テーマに惹かれる人に対しても「SENQ霞が関に来てください」と声をかけやすいんですよ。

イベントを企画するときも、主催者や参加者が得られるもの、得たいもののゴールや目的を設計した上で、そこに合致する方は大歓迎みたいなところは必ず設計するようにしています。SENQに入居していなくたって、イベントに足を運んでくれた時にこの場所を知ってくれたらいいと思うし。そして「来てほしい」という要望を出すわけなので「ここに来れば、こんな出会いがあって、こんな素敵な社会になるかもしれないよ」というワクワク感を持ってもらうことも大事にしています。僕は「ワクワクしないと社会は変わらない」と思っているので。

------今後、SENQ霞が関でどのようなことに取り組んでいきたいとお考えですか。

DSC_0021_2

栫井:このSENQ霞が関で「官民連携」について、もっともっと広めていきたいです。イベントで官民ともにどんどん巻き込んで、参加した人たちにそれぞれの組織の中にまで広げてもらおうと。

例えば、近々デジタルルールのイベントを予定しています(2月19日に開催されました。イベントの様子はこちら)。GAFAが世界を席巻していたり、中国のベンチャーも巨大な力を持っている中で、日本はデータの世界的な流れとどう向き合うか?という内容です。官僚が机の上で1人でうなっているだけではいい政策は出てこないし、企業が世界にデジタルの分野で名乗りを上げようと思っても、ルールメイキングを官民一緒にやらないと難しい。そこで、官も民も一緒に本音でディスカッションして政策や事業を作っていこうという。

経産省以外に外務省、内閣府、元公正取引委員会の方も呼んでいるし、大企業、ベンチャー、技術の専門家もここで一同に介して「どうやったらこのデジタル領域で世界に向き合うか」を議論するのはすごくアツいですよね。他にも、防災について話すイベントや、医療現場の環境改善を考えるなどさまざまなテーマで「官民一緒に共創するから価値が出る」イベントをやりまくるつもりです。

官僚は個人としては、あちこちの省庁に面白い人がたくさんいる。ただ、組織としての省庁同士の関係にはまだまだ難しいところもあります。そこで組織の肩書きを取りさって、個人の情熱を原動力に活動していくことで、新しい価値が生まれるようにしたいんです。その個人の情熱が集まるのはどこかの省庁の会議室ではなく、省庁も民間企業も垣根なく、フラットに交流できるSENQ霞が関だろうと。キーワードは「官民の情熱の交差点」ですね。

------当社は官民連携の場、社会課題を解決する場になりたいという思いでSENQ霞が関を作りました。今、まさに「官民の情熱の交差点」として使っていただいているのは担当者冥利に尽きます。本日はありがとうございました。

 
インタビュー:丸田カヨコ)

❖ 関連団体❖
   
株式会社Publink    https://publink.biz/



資料ダウンロード

 

RESERVE

内覧予約はこちらから